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受賞者および選考理由(2005年度)(2) 

掲載日:2025年6月11日

受賞者:

服部裕司(九州工業大学工学部数理情報基礎講座 助教授)

受賞業績:

渦輪の曲率不安定性解析対象論文:Hattori, Y. and Y. Fukumoto, Short-wavelengthstability analysis of thin vortex rings, Physics of Fluids,15, 3151-3163 (2003).

対象論文:

Hattori, Y. and Y. Fukumoto, Short-wavelengthstability analysis of thin vortex rings, Physics of Fluids,15, 3151-3163 (2003).

参考論文

Fukumoto, Y. and Y. Hattori, Linear stabilityof a vortex ring revisited, in Proc. IUTAM Symposiumon Tubes, Sheets and Singularities in Fluid Dynamics,eds. H.K. Moffatt and K. Bajer, pp. 37-48 (Kluwer,New York 2003).Inoue, O. and Y. Hattori, Sound generation byshock-vortex interactions,Journal of Fluid Mechanics, 380, 81-116 (1999).

選考理由:

受賞者は,渦輪の不安定性について,渦管の曲率に起因する不安定性の物理的メカニズムと不安定成長率を局所安定性解析により解析的かつ数値的に調べることにより明らかにした.

渦構造のプロトタイプのひとつである渦輪の不安定性について,これまでに知られていたのは,約30年前にWidnallらによって明らかにされたWidnall不安定性のみであった.これに対して,候補者らは,参考論文(Fukumoto & Hattori 2003)において,渦管の曲率に起因する新しい不安定性を発見した.この曲率不安定性の成長率はWidnall不安定性の成長率より,渦管の細さを表すパラメタε(=渦核半径/渦輪半径)の低次で現れるので,細い渦輪の不安定性において支配的になる.しかし,この参考論文で取り扱われた渦輪は特別な渦度分布をもつKelvinの渦輪に限られていた.また,そこで展開されたモード解析は煩雑であり,不安定性の物理的メカニズムには不明な点が多く残されていた.これに対し,受賞者は,対象論文に記されているように,いわゆる局所安定性解析を用いて,細い渦管の不安定性をあらためて調べなおし2種類の不安定性を見通しよく捉えることに成功した.これにより,両者の共通点(パラメター共鳴であること)と差異(起源や定量的な違い)が,数値的および解析的に明らかになった.また,一般的な渦度分布をもつ渦輪について,不安定成長率の解析的表現も得られている.

曲がりをもつ渦構造は流れのいたるところに存在するので,候補者の研究結果は,流れの不安定性において重要な意義をもつと考えられる.受賞者は,これまで,主として理論解析と数値計算によりさまざまな対象をさまざまな手法で研究してきている.特に,理論解析では,微分幾何・関数解析・ウェーブレット解析・漸近展開・局所安定性解析・シェルモデル・contour dynamicsなど,伝統的なものから最新の解析手法までを駆使し,一定の成果を挙げている.一連の研究の中で一貫していることは,共通の法則(支配方程式)から非線形性ゆえに生み出されるバラエティに富む諸現象のエッセンスを捉え,明らかにしようとする態度である.たとえば,今回の参考論文では,局所安定性解析により曲率不安定性のエッセンスを明らかにしたが,その結果が対象論文のモード解析を推し進め,曲率不安定性の全貌を明らかにするために役立った.また,受賞者には国内外を問わず共同研究者が多いことも特徴である.流体力学という奥深い学問において,ときには流体力学以外の分野にも飛び込んで多角的な視点に立つ研究を行うことで,将来,受賞者が流体力学の発展に大いに貢献してくれるものと期待される.