金川哲也(筑波大学システム情報系)
気泡流中の非線形波動に関する基礎数理と医薬応⽤
(a) T. Kanagawa, T. Ayukai, T. Maeda, T. Yatabe, Effect of drag force and translation of bubbles on nonlinear pressure waves with a short wavelength in bubbly flows, Phys. Fluids, 33, 053314 (2021).
(b) T. Kanagawa, R. Ishitsuka, S. Arai, T. Ayukai, Contribution of initial bubble radius distribution to weakly nonlinear waves with a long wavelength in bubbly liquids, Phys. Fluids, 34, 103320 (2022).
(c) T. Kanagawa, M. Honda, Y. Kikuchi, Nonlinear acoustic theory on flowing liquid containing multiple microbubbles coated by a compressible visco-elastic shell: Low and high frequency cases, Phys. Fluids, 35, 023303 (2023).
単相液中の圧力波(音波)は,伝播に伴い蓄積される非線形性と媒質の散逸性が釣合うときに衝撃波に発展するが,液中に振動気泡を含む場合は波の分散性も現れ,非線形,散逸,分散が混在する複雑な現象となる.受賞者は,このような現象に対して非線形波動方程式を用いた理論的手法を採用し,分散性の概念を気泡径と波長の比を用いて定量表現した.そして,気泡流中の圧力波の理論的研究においてはこれまで見過ごされてきた気泡に働く抗力に着目し,二流体モデル基礎式を用いて粘性・圧縮性・熱以外に抗力も圧力波の散逸を招くことを発見している.また,気泡の初期径分布が非線形,散逸,分散の全てに寄与することを示し,中でも径のばらつきの増加につれ分散性が著しく増加することを明らかにした.
さらに,医薬応用への展開を目指し,膜で覆われた気泡(膜気泡)を十分多く含む液中超音波が従う非線形波動方程式を導いた.従来は単一膜気泡の解析に留まっていたが,本方程式により多数の膜気泡が存在する場合には膜の圧縮性が液体の圧縮性よりも超音波を散逸させる効果があることを解明している.新規性に加え,医薬分野を中心とした応用展開にも力を注いでいることは高く評価され,今後の医工学の進展への貢献も大いに期待される.以上から,受賞者は流体力学の研究者として極めて有望であり,竜門賞にふさわしい.