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受賞者および選考理由(2022年度)(1) 

掲載日:2023年9月28日

受賞者

有⾺隆司(苫⼩牧⼯業⾼等専⾨学校 創造⼯学科)

対象業績

非平衡熱⼒学に基づく多原⼦分⼦気体流れに関する数理的研究

関連論文

(a) T. Arima, T. Ruggeri, M. Sugiyama, Rational extended thermodynamics of dense polyatomic gases incorporating molecular rotation and vibration, Philos. Trans. R. Soc. A, 378, 20190176 (2020).

(b) T. Arima, T. Ruggeri, M. Sugiyama, Extended Thermodynamics of Rarefied Polyatomic Gases: 15-Field Theory Incorporating Relaxation Processes of Molecular Rotation and Vibration, Entropy, 20, 301 (2018).

(c) T. Arima, T. Ruggeri, M. Sugiyama: Rational extended thermodynamics of a rarefied polyatomic gas with molecular relaxation processes, Phys. Rev. E, 96, 042143 (2017).

選考理由

超音波や衝撃波などの時間・空間スケールが小さな強い非平衡流れの理解は,現代流体科学における喫緊の課題である.受賞者は「拡張された熱力学(ET)」理論を用いて,多原子分子実在気体の分子振動や回転による内部エネルギーの緩和現象に伴う非平衡流れを記述する流体方程式の導出を行い,分子内部エネルギーと非平衡圧力の関係をエントロピー原理に基づく解析から明らかにしている.また,導出した理論を用いて超音波の分散関係の解析を行い,Navier- Stokes-Fourier(NSF)理論では記述できない体積粘性効果による特徴的な音波吸収の実験結果を再現することに成功している.さらに,多原子分子希薄気体について,せん断応力や熱流束の時間発展に加えて分子振動や回転による内部エネルギーの緩和を包括的に記述できるETの構築,この緩和を記述する運動論モデルのBoltzmann方程式に基づく提案とBGKタイプの衝突項の提案,および最大エントロピー原理に基づく閉じたモーメント方程式系の導出などにも成功している.

以上の研究内容は,第一原理的なアプローチの適用が容易ではない実在気体や多原子分子希薄気体の解析に対する新たなアプローチに繋がると期待され,新規性および注目度も高いと評価される.さらに国外研究者との国際研究を重視する姿勢もうかがえ,今後の更なる国際的な活躍が期待できる.以上から,受賞者は流体力学の研究者として極めて有望であり,竜門賞にふさわしい.