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受賞者および選考理由(2021年度)(1) 

掲載日:2022年4月18日

受賞者

辻 徹郎(京都大学大学院情報学研究科)

対象業績

熱泳動を用いた微小粒子輸送に関する実験および数理的研究

関連論文

(a) T. Tsuji, S. Saita, S. Kawano, Dynamic pattern formation of microparticles in a uniform flow by an on-chip thermophoretic separation device, Phys. Rev. Applied, 9, 024035 (2018)

(b) T. Tsuji, Y. Sasai, S. Kawano, Thermophoretic manipulation of micro-and nanoparticle flow through a sudden contraction in a microchannel with near-infrared laser irradiation, Phys. Rev. Applied 10 (4), 044005 (2018)

(c) T. Tsuji, S. Saita, S. Kawano, Thermophoresis of a Brownian particle driven by inhomogeneous thermal fluctuation, Physica A 493, 467-482 (2018)

選考理由

本候補者は,液体系熱泳動の基礎的理解のため,分子流体の理論・計算とマイクロ流体実験の双方から現象解明に取り組んでいる.熱泳動の実験では,微細加工技術により作製したマイクロヒータや近赤外集光レーザーの光熱効果を用いてマイクロ流体デバイス中に熱泳動の効果が卓越する急峻な温度勾配を形成し,熱泳動を誘起する技術を考案し,粒子に働く熱泳動力の粒子種依存性を利用して,同径の異種粒子の混合液から特定の粒子のみを取り出す選択的粒子輸送に成功している.この成果はマイクロ流体系における新しい粒子分離および濃縮技術への展開が期待される.さらに,分子気体力学の理論的枠組みの応用から,質量が大きいターゲット粒子と質量が小さい流体粒子に対する2成分系ボルツマン方程式に基づいて,ブラウン粒子の熱泳動における質量依存性を説明するための数理モデルを提案している.微小な温度勾配を持つ場に対応した流体粒子の速度分布関数を仮定し,さらに粒子質量比に関してボルツマン方程式を漸近解析することで,熱泳動移動度における粒子質量依存性の表式を得ている.この表式の実験との直接比較には至っていないものの,分子動力学計算との定性的な比較によりモデルの妥当性を検証している.熱泳動の諸特性は理論的に未知な点が多いが,本研究のアイデアはこの解決に貢献でき,化学系・生物物理系分野への応用など,今後の益々の発展が期待できる.さらに本候補者の実験と理論の両面から取り組む姿勢は研究者として高く評価できる.