沖野真也(京都大学大学院工学研究科)
高シュミット数のスカラーによって形成される密度成層流体中の減衰乱流に関する研究
(a) S. Okino, and H. Hanazaki, "Decaying turbulence in a stratified fluid of high Prandtl number," J. Fluid Mech., Vol. 874, pp.821-855, (2019)
(b) S. Okino, and H. Hanazaki, "Direct numerical simulation of turbulence in a salt-stratified fluid," J. Fluid Mech., Vol. 891, A19, (2020)
海洋など安定密度成層流体の成層は,熱や塩分などのスカラーによって形成される.これらのシュミット数𝑆𝑐は,しばしば大きな数値を取ることが知られており,例えば海洋の場合の熱と塩分については𝑆𝑐 = 7と𝑆𝑐 = 700である.従来の密度成層乱流の数値計算では,ほとんどの場合に𝑆𝑐 = 1に限定した計算がなされてきた.そこで本研究では,海水といった高シュミット数のスカラーによって形成される密度成層流体を対象として,減衰乱流の直接数値計算を実施し,コルモゴロフ・スケール以下の小スケールにおけるスカラー輸送の性質を明らかにした.密度成層乱流では,浮力の影響がコルモゴロフ・スケールにまで及ぶものの,ポテンシャルエネルギーが大きな値をもつ領域が空間的に一部に集中して雲のような構造を示すことを見出し,これに対応してポテンシャルエネルギースペクトルは大・小二つのスケールの中間スケールで小さな値をとり,成層乱流の基本スケールとほぼ一致することを示した.このような現象は𝑆𝑐 < 70の場合には見られず,コルモゴロフ・スケールとバチェラー・スケールの差が非常に大きい超高シュミット数のスカラーに固有の特徴であることを明らかにした.これらの研究成果は独創的であるとともに,高シュミット数安定密度成層流体の基礎的な知見として有用であり,流体力学への貢献も大きいと評価できる.超高シュミット数の流れ場は,海洋のみならず,液相での化学反応にも現れるため,広く共通の事象として,海洋物理,応用化学の分野に応用できるものと期待できる.応募者の研究業績は,流体力学の著名な雑誌に掲載されており,将来性も期待できる.以上の理由により沖野真也氏は竜門賞にふさわしいと評価する.