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受賞者および選考理由(2020年度)(2) 

掲載日:2021年5月26日

受賞者

松田景吾(海洋研究開発機構地球情報基盤センター)

対象業績

乱流中の慣性粒子クラスタリングが雲放射・レーダー反射に及ぼす影響の解明

関連論文

(a) K. Matsuda, R. Onishi, R. Kurose, and S. Komori, "Turbulence effect on cloud radiation," Phys. Rev. Lett., Vol. 108, 224502, (2012)

(b) K. Matsuda, R. Onishi, M. Hirahara, R. Kurose, K. Takahashi, and S. Komori, "Influence of microscale turbulent droplet clustering on radar cloud observations," J. Atmos. Sci., Vol. 71, pp. 3569-3582, (2014)

(c) K. Matsuda, and R. Onishi, "Turbulent enhancement of radar reflectivity factor for polydisperse cloud droplets," Atmos. Chem. Phys., Vol. 19, pp. 1785-1799, (2019)

選考理由

地球大気中の対流雲内では,多数の雲粒が乱流場中を運動している.雲粒のように多数の微小な慣性粒子が乱流中を運動する場合には,慣性力によって粒子が乱流渦からはじき出されることにより,慣性粒子クラスタリングという空間不均一性が生じる.この雲粒のクラスタリングにより,雲内部での電磁波の放射伝達特性に影響を及ぼすことが指摘されてきたものの,これまで研究例はなかった.そこで本研究では,高レイノルズ数一様等方性乱流の慣性粒子を含む大規模直接数値計算を行い,ラグランジアン粒子の離散的な分布に対して放射伝達を計算する新しい手法を開発し,慣性粒子クラスタリングによる放射伝達への影響を定量的に評価した.また,気象レーダーによる雨雲観測を想定した数値計算により,現実的な積雲の条件で,慣性粒子クラスタリングがレーダー反射強度を増加させることを定量的に評価し,レーダー観測によって積雲内の乱流状態を推定できる可能性を示した.これらの研究成果は世界的にも初めての取り組みであり,極めて独創的だと評価できる.また,クラスタリングによる数密度変動スペクトルが,通常のスカラー変動スペクトルとは著しく異なる性状を持つことを示すなど,乱流中の慣性粒子クラスタリングに関する知見は流体力学への貢献度も高い.さらに,雲物理など気象分野に直接応用できるのみならず,噴霧やダストを含む流れの機械系分野,宇宙の惑星形成にも応用の可能性のある基礎的かつ重要な知見を与えている.応募者は,雲物理学に関連した慣性粒子に着目したテーマで,数多くの業績を挙げており,今後の発展も期待できる.以上の理由により松田景吾氏は竜門賞にふさわしいと評価する.