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受賞者および選考理由(2018年度)(2) 

掲載日:2019年5月1日

受賞者

野々村拓(東北大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻)

対象業績

高速流からの音響波解析のための高次精度重み付き差分法の研究

関連論文

(a) T. Nonomura, N. Iizuka, K. Fujii, “Freestream and vortex preservation properties of high-order WENO and WCNS on curvilinear grids,” Comput. Fluids, 39 (2010), 197.

(b) T. Nonomura, S. Morizawa, H. Terashima, S. Obayashi, K. Fujii, “Numerical (error) issues on compressible multicomponent flows using a high-order differencing scheme: Weighted compact nonlinear scheme,” J. Comput. Phys., 231 (2012), 3181.

(c) T. Nonomura, K. Fujii, “Characteristic finite-difference WENO scheme for multicomponent compressible fluid analysis: Overestimated quasi-conservative formulation maintaining equilibriums of velocity, pressure, and temperature,” J. Comput. Physics, 340 (2017), 358.

選考理由

野々村拓氏は,ロケットエンジンからの排気噴流など,高マッハ数の衝撃波を含む複雑流れから発生する音響波の解析を行うことを目的に,曲線座標系での解析や多成分気体の解析などの実用計算に向けた高次精度法の開発を行った.具体的には,広く使用されている差分WENO(Weighted Essentially Non-Oscillatory)法が持っていた課題,すなわち「曲線座標系での解析の一様流保持」および「多成分気体の解析で生じる虚偽振動」の二つの問題に対し,重み付きコンパクト差分法(WCNS=Weighted Compact Nonlinear Scheme)を利用してこれを解決する方法を開発・提案し,衝撃波を含む流れの曲線座標での解析や多成分気体を含む高速流に対する高精度解析を可能にした.特に,保存系でアルゴリズムを組めばより高精度な解が得られるという常識に反して,敢えて非保存系を利用することで,誤差の数値振動を抑える実用方法を開発したところに独創性が認められる.

 ロケットの打ち上げ時にロケット噴流から発生する非常に強い音響波は,ロケットのペイロードである人工衛星や宇宙機に悪影響を及ぼす可能性があるが,ロケット噴流からの音響波の予測は経験則とサブスケール試験に頼っており,その精度は十分ではなかった.そのため,様々な音響試験を行い,大きめのマージンをとって設計をせざるを得なかった.同氏が,曲線座標系での解析や多成分気体の解析などの実用計算に向けた高次精度法の開発を行い,高マッハ数の衝撃波を含む複雑流れから発生する音響波の解析を可能にした貢献度は高い.

 同氏は,現在も高マッハ数の衝撃波解析などの研究を継続しており,今後更なる研究成果が期待できる.以上より,野々村拓氏は,今後の日本の流体力学研究を牽引する将来性豊かな研究者として竜門賞にふさわしいと評価する.