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受賞者および選考理由(2017年度)(1) 

掲載日:2018年5月1日

受賞者

鈴木康祐(信州大学 工学部 機械システム工学科)

対象業績

埋め込み境界―格子ボルツマン法に基づく移動境界流れの数値計算法の開発とその羽ばたき飛翔への応用

関連論文

(a) K. Suzuki and T. Inamuro, “Effect of internal mass in the simulation of a moving body by the immersed boundary method,” Computers & Fluids, Vol. 49, pp. 173-187, 2011.

(b) K. Suzuki, K. Minami, and T. Inamuro, “Lift and thrust generation by a butterfly-like flapping wing-body model: immersed boundary-lattice Boltzmann simulations,” Journal of Fluid Mechanics, Vol. 767, pp. 659-695, 2015.

選考理由

格子ボルツマン法 (LBM: Lattice Boltzmann Method) は,計算効率が高く,並列計算に向いたアルゴリズムであるため近年数値流体力学 (CFD: Computational Fluid Dynamics) の分野で急速に普及が進んでいる.最近ではLBM を導入した商用ソフトも出てきており,実用レベルでも使用され始めているが,解法が十分に確立されていない分野もあり,アルゴリズムの改良も今なお精力的に行われている.その一つが,移動する物体周りの流れ解析である.LBM では,等間隔のデカルト座標上に配置された粒子の分布関数を取り扱う.そこで,等間隔のデカルト座標上に任意形状の境界を簡単に設定できる埋め込み境界法 (IBM: Immersed Boundary Method) を LBMに適用したIB-LBM が,物体を取扱う有力な手段の一つと考えられている.しかしIB-LBM は,振動する複雑形状の物体周りの流れでレイノルズ数が大きくなったときに,トルクに誤差が生じるという問題点を抱えていた.

鈴木康祐氏は,この問題点を改善するモデル(Internal mass effect を考慮したLagrangian points approximation 法)を開発し,この手法により高レイノルズ数領域での振動物体周りのトルクの計算精度が従来の方法より高くなることを示した.

さらに,鈴木康祐氏は上記の手法を蝶の羽ばたき飛翔の解析に応用した.そこでは,飛翔において重要である「翼の羽ばたき方」,「柔軟性」,「形状」の3項目のうち特に「翼の羽ばたき方」に着目し,蝶の羽ばたきを模した単純な翼・胴体モデルを考案して数値計算を行った.

その結果,実際に蝶が飛翔するレイノルズ数領域に対して,静止状態から加速し,前進,上昇飛翔する一連の解 析が可能であることを示した.この結果は,羽ばたき飛 翔解析の突破口を開いたものであり,将来,超小型飛翔体など工学的応用にも期待される. 鈴木康祐氏は,IB-LBM の解析手法について当該研究分 野に対して少なからずインパクトを与え,現在も引き続 きその研究を進めており,今後の将来性も期待できる. 以上より,鈴木康祐氏は今後の流体力学の発展への顕著 な貢献を期待できる研究者として竜門賞にふさわしいものと考える.