河合宗司(東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻)
高レイノルズ数流れにおけるLarge-eddy simulationの壁面モデルに関する研究
(a) S. Kawai and J. Larsson, "Wall-modeling in large eddy simulation: length scales, grid resolution and accuracy", Phys. Fluids, 24, 015105-1-10 (2012).
(b) S. Kawai and J. Larsson, "Dynamic non-equilibrium wall-modeling for large eddy simulation at high Reynolds numbers", Phys. Fluids, 25, 015105-1-21 (2013).
航空機の壁面境界層のような高レイノルズ数の流れでは,渦構造の空間スケールの範囲が,外層の大規模構造から粘性スケールの微細構造まで,大きく広がっている.このような流れをLarge eddy simulation(LES)で解析する場合,壁面とそれに隣接するLES格子点の間を壁近傍の内層域として乱流モデルで補う方法がとられるが,内層外縁部の対数層領域を適切に再現できない困難(対数層ミスマッチ)があった.候補者は,内層域の渦スケールとLES格子サイズに対する考察から,この困難の要因が乱流モデルに流れ情報を与える位置の不適切さにあることを同定した.そして乱流モデルの適用範囲についての考察にもとづいて適正な位置取りができる簡単な方法を提案し,対数層ミスマッチの困難を解決した.このことは高レイノルズ数のLES計算の課題が内層域の乱流モデルの改善の問題に帰着されたことを意味している.候補者は,さらに非平衡壁乱流モデルに対する新しい動的渦粘性モデルを提案し, 実用計算への適用を主目的としたLES計算が可能なレイノルズ数を大幅に上げている.これらの成果をまとめた2報の代表論文は,従来の慣例に過度にとらわれない柔軟な発想と簡潔・明快な論理の展開を特徴とする.選考委員会でも非常に高い評価を得ており,受賞者は,基礎から応用,さらには実用まで幅広く研究成果を展開した若手研究者で,将来,流体力学の分野で大いに活躍することが期待される.