長谷川洋介(東京大学 生産技術研究所)
壁乱流における伝熱及び運動量輸送の最適制御に関する研究
(a) Y. Hasegawa and N. Kasagi, "Dissimilar control of momentum and heat transfer in a fully developed turbulent channel flow," J. Fluid Mech., 683, 57-93 (2011).
(b) A. Yamamoto, Y. Hasegawa and N. Kasagi, "Optimal control of dissimilar heat and momentum transfer in a fully developed turbulent channel flow," J. Fluid Mech., 733, 189-220 (2013).
(c) Y. Hasegawa, M. Quadrio and B. Frohnapfel, "Numerical simulation of turbulent duct flows with constant power input," J. Fluid Mech., 750, 191-209 (2014).
熱交換器などのエネルギー機器の開発には流れと熱輸送を制御することが必要となる.伝熱を伴う内部流において壁面の伝熱の促進を試みると,温度場と速度場の相似性のため壁面摩擦抵抗も同時に増大してしまうという傾向がある.エネルギー効率の観点から,摩擦抵抗を抑えつつ伝熱を促進する非相似的な伝熱促進の実現が重要な課題となる.候補者はソレノイダルなベクトル場である速度場とスカラー場としての温度場の本質的な違いに着目し,平行平板間乱流の直接数値計算において最適制御の方法を用いて運動量輸送と熱輸送の独立な制御を試みた.その成果は3編の代表論文で次のように取りまとめられている.まず,準最適制御理論を用いて制御入力である壁面吹き出し吸い込みの時空間分布を決定し,非制御時と比べ摩擦抵抗の増加を2倍に抑えつつ伝熱を3倍に増加できることを示した.その流れ場の剪断応力と熱流束の分布を調べ,制御の機構を詳細に解析した.次に,長時間の流れの挙動を考慮する最適制御理論を用いて壁面吹き出し吸い込みの最適化を行い,摩擦抵抗の低減と伝熱の促進を同時に達成できることを初めて示した.さらに,制御の評価の際に用いる流量一定,圧力勾配一定という従来の流動条件に加えて,投入エネルギー一定という条件を新たに提唱し定式化した.これらの成果は今後の乱流熱輸送の制御の研究に重要な指針を与えるものと考えられ,受賞者はこの分野で基礎的な視点から工学的応用を展開できる若手研究者である.今後の流体力学の発展に大きな貢献が期待される.