大西 領(海洋研究開発機構・地球シミュレータセンター・研究員)
微小慣性粒子の乱流衝突機構の解明と高解像度気象シミュレーションへの応用
(a) R. Onishi, K. Takahashi and S. Komori: “Influence of gravity on collisions of mono dispersed droplets in homogeneous isotropic turbulence", Physics of Fluids, Vol. 21, 125108 (2009).
(b) R. Onishi and K. Takahashi: “A Warm-Bin-Cold-Bulk Hybrid Cloud Microphysical Model", Journal of the Atmospheric Sciences, Vol. 69, pp.1474-1497 (2012).
(c) R. Onishi, K. Takahashi and J.C. Vassilicos: “An Efficient Parallel Simulations of Interacting Inertial Particles in Homogeneous Isotropic Turbulence", Journal of Computational Physics, Vol. 242, pp.809-827 (2013).
気相乱流中で微小慣性粒子が互いに衝突するという乱流現象は,工業装置内の流れにおいてだけでなく環境中でも見られる重要な研究課題である.とくに気象学分野では,局所的な豪雨予測の問題と密接に関係するため注目を集めている.豪雨をもたらす乱流雲の中では,雲粒の衝突成長が雲内乱流によって大きく促進されると考えられている.しかし,現在の気象予測計算ではこの促進効果が考慮されていないため,乱流雲の発達や豪雨発生の正確な予測は原理的に困難な状況にある.乱流中の微小粒子の衝突機構については,60 年以上の研究の歴史があるにもかかわらず未解明な部分が多いというのが現状である.
受賞の対象となった論文は 3 編である.論文 (a) と (c) では,受賞者は,大規模並列計算 DNS コードを開発し,DNS によって再現した定常等方性乱流の中を運動する微小慣性粒子のラグランジュ的追跡によって衝突統計量を詳細に調べ,統計量に及ぼす重力沈降の影響を明らかにし,また,その影響を定量的に評価できる理論モデルの構築に成功した.さらに,20003 の格子点を用いて計算した乱流場中の 109 個の慣性粒子を追跡するという,大規模計算(竜門賞応募締め切りの 2013 年 10 月末で世界最大規模)を行い,コルモゴロフスケールよりも小さい微小な慣性粒子同士の衝突ではコルモゴロフスケール渦が支配的であり,衝突頻度のレイノルズ数依存性は無視できるという,従来の概念を覆して,雲乱流に見られる高レイノルズ数では乱流衝突頻度に対するレイノルズ数依存性は,数十% の影響をもたらし得ることを示した.
論文 (b) では,計算コストの上昇を抑えながら,水滴の成長を陽に計算できる手法の開発に成功し,乱流衝突モデルの改良を気象シミュレーションの信頼性向上に反映させることを可能にした.
以上のように,受賞者は,混相乱流分野における粒子衝突機構の解明という古くからのテーマに対して,一つの新しい展開をもたらしたと高く評価される.選考委員会では,今後の流体力学と気象予報の両分野を大きく支えることが期待される有望な若手研究者であり,竜門賞候補者として相応しいと判定した.