玉野真司(名古屋工業大学大学院工学研究科・准教授)
粘弾性流体の乱流境界層流れにおける抵抗低減メカニズムの解明
界面活性剤や高分子添加による流動の抵抗低減(以下、DR)に関する研究は、将来的な省エネルギー技術の観点で非常に重要と考えられているが、未だ未解明な部分が多い。また、DRに関する従来の研究は、完全発達チャネル乱流を取り扱ったものがほとんどであり、流れ方向に発達する乱流境界層流れに関する研究が求められている。
玉野氏は、陽イオン性界面活性剤水溶液の抵抗低減乱流境界層流れにおいて、境界層中央部付近に観察される主流方向乱れ強さの極大値とDRおよびレイノルズ数との関係を調査し、変動速度ベクトルが壁面にほぼ平行な向きになる帯状構造が壁面近傍と境界層中央部付近に発生することにより付加的な極大値が生じることを明らかにした。さらに、これらの発生メカニズムとして、陽イオン性界面活性剤水溶液の特徴的なレオロジー特性であるせん断誘起構造(SIS)に基づく2層構造モデルを提案し、陽イオン性界面活性剤水溶液の乱流境界層に特有なDRメカニズムの解明に大きく貢献した。
また、非イオン性界面活性剤は陽イオン性界面活性剤に比べて生分解性が良く、環境負荷が非常に小さい界面活性剤であるが、そのDR効果に関する研究は陽イオン性界面活性剤水溶液のものと比べると極めて少なかった。玉野氏は、円管内乱流において、非イオン性界面活性剤水溶液のDR効果は陽イオン性界面活性剤水溶液と同様な挙動を示すのに対して、乱流境界層流れにおいては、乱流統計量の分布ならびに乱流渦構造が高分子水溶液の場合に近く、陽イオン性界面活性剤の場合に見られる主流方向乱れ強さ分布の付加的な極大値も見られないことを明らかにした。 さらに、玉野氏は、レオロジー特性が異なるOldrOyd-Bモデル、Giesekusモデル、およびFENE-Pモデルを用いた抵抗低減乱流境界層の大規模なDNSを実行し、実験結果の定性的な挙動の再現に成功した。また、抵抗低減効果とレオロジー特性との関係や、ポリマーや界面活性剤ミセルの伸長と抵抗低減率の流れ方向分布が反相関することなど、有用な知見を多数見出した。
以上のように、玉野氏は粘弾性流体の乱流境界層流れの抵抗低減メカニズムについて、実験的・数値的アプローチの両面から活発に研究を推進し、数多くの新たな知見を見出している。これらは、今後の流体力学における発展に大きく貢献することが期待される。