田中 智彦((株)日立製作所 中央研究所・研究員)
固気混相乱流のPIV計測と散逸構造
(a) T. Tanaka and J. K. Eaton, “Sub-Kolmogorov resolution particle image velocimetry measurements of particle-laden forced turbulence,” J. Fluid Mech., Vol. 643, 177–206 (2010).
(b) T. Tanaka and J. K. Eaton, “A correction method for measuring turbulence kinetic energy dissipation rate by PIV,” Exp. Fluids, Vol. 42, 893–902 (2007).
固気混相乱流は粉粒体を扱う工学分野で重要であるばかりでなく,乱流の微細構造と微粒子との相互作用や乱流の散逸構造などの解明にも重要な役割を果たす流れである.しかし,微小固体粒子と気相乱流の微細構造との相互作用を実験的に計測するには高い技術を必要とする.
今回,竜門賞受賞候補となった田中氏はEaton氏と協力して,コルモゴルフスケール程度の高い空間分解能をもつSKR-PIV(Sub-Kolmogorov Resolution Particle Image Velocimetry)システムを作り,極小スケールをもつ乱流構造の変化を詳細に計測した(J. Fluid Mech., 2010年).田中氏はこのシステムを作成するにあたっていくつかの工夫を行った.一つは光学系の工夫であり,望遠レンズと接写リングを適切に組み合わせることにより,高解像度の画像を得ることに成功した.また,膨大な画像データを処理するために,並列処理を用いた.このSKR-PIV システムを用いて,微小粒子近傍の乱流エネルギーとエネルギー散逸率を測定することにより,微小粒子との相互作用によって強いせん断流が生じ,乱流エネルギーの減衰が大きくなることを明らかにした.
もう一つの論文(Exp. Fluids, 2007年)では,PIV法 による乱流エネルギー散逸測定における誤差低減法を提案した.PIV法で求めた速度場から乱流エネルギー散逸を評価する際,PIVの解像度がコルモゴロフスケールよりも大きいと乱流エネルギー散逸率を過小に評価することとなり,PIV解像度が小さいとノイズによる誤差が大き過ぎて精度良く乱流エネルギー散逸率を測定することが困難であった.田中氏はPIV法で得られた速度場から乱流エネルギー散逸率算出の誤差低減法を提案し,オセーン渦集合からなるモデル画像を用いてその有効性を示した.
以上のように,田中氏は,微小粒子と乱流の微細構造の変化を調べるという難しい問題に取り組み,微小粒子と乱流との相互作用だけでなく,乱流の散逸構造解明のひとつの実験的方法を確立した.この方法は,今後の乱流研究において重要な役割を果たすことが期待される.