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受賞者および選考理由(2009年度)(1) 

掲載日:2010年4月22日

受賞者

小林宏充(慶應義塾大学日吉物理学教室・教授)

対象業績

乱流構造に基づくサブグリッドスケールモデルの開発

関連論文

  1. H. Kobayashi: “The subgrid-scale models based on coherent structures for rotating homogeneous turbulence and turbulent channel flow,” Physics of Fluids, Vol. 17, 045104 (2005).
  2. H. Kobayashi, F. Ham and X. Wu: “Application of a local SGS model based on coherent structures to complex geometries,” International Journal of Heat and Fluid Flow, Vol. 29, pp.640 - 653 (2008).
  3. H. Kobayashi: “Large eddy simulation of magnetohydrodynamic turbulent duct flows,” Physics of Fluids, Vol.20, 015102 (2008).

選考理由

乱流現象の予測は、流体力学における重要課題のひとつである。ナビエ・ストークス方程式に忠実に乱流を再現する直接数値シミュレーションは低レイノルズ数に限定されるため、高レイノルズ数乱流の数値予測には乱れによる運動量輸送(乱流粘性)のモデル化が不可欠となる。普遍性の期待される小スケール乱れによる運動量輸送にのみモデル(サブグリッドスケールモデル)を適用するLES(Large Eddy Simulation)は、乱流の代表的数値計算法である。受賞候補者は、LESの新たなサブグリッドスケールモデルの開発に取り組み、乱流中の秩序構造に着目した簡潔で安定なモデルを提案し、種々の乱流への適用を通じてその有用性を示した。

最近のLESの標準的なサブグリッドスケールモデルとして、動的スマゴリンスキーモデルが広く知られている。このモデルでは、乱流粘性に関わるモデルパラメターを相似性の要請から動的に決定することで、層流化や壁近傍での乱流粘性減衰を再現可能としている。しかし、動的スマゴリンスキーモデルでは、負の乱流粘性を生じて数値シミュレーションが不安定化するため、モデルパラメターの空間平均化などの人為的操作により負の乱流粘性を回避する必要がある。受賞候補者は、この問題を解決するため、乱流の秩序構造に関連する速度勾配テンソルの第2不変量に基づいた新たなサブグリッドスケールモデルを考案した。乱流の最小スケールには管状の普遍的秩序構造が存在し、秩序構造の周辺においてエネルギー散逸率が高くなることが知られている。受賞候補者は、この描像がグリッドスケールにおいて粗視化された速度場に対しても適用できるとし、グリッドスケールの大きな正値の第2不変量で捉えた構造の周囲でサブグリッドスケールへのエネルギー伝達がなされるものと考えた。受賞候補者のモデルでは、この発想に基づき、慣性系あるいは回転系でのモデルパラメターがグリッドスケールの第2不変量によりモデリングされている。本モデルでは負の乱流粘性を生じないため人為的操作を加える必要がなく、簡潔かつ安定な数値計算が実行可能となる。受賞候補者は、このモデルを種々の乱流のLESに適用し、モデルが動的スマゴリンスキーモデルに匹敵する予測性能をもつことを実証した。

以上のように、受賞候補者が独創的な着想から新たなサブグリッドスケールモデルを発案し、そのモデルが従来の標準的モデルの問題を解決し、かつそれに匹敵する性能を有することを示したことは高く評価される。秩序構造と乱流統計との関連づけは乱流研究の課題のひとつであり、受賞候補者のモデルの成功は、今後の乱流数値予測に大きく貢献すると同時に、この種の基礎研究の糸口ともなることが期待される。

 
 
 
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