深潟 康二氏(慶応義塾大学・理工学部・機械工学科・専任講師)
Koji Fukagata, Kaoru Iwamoto & Nobuhide Kasagi: “Contribution of Reynolds stress distribution to the skin friction in wall-bounded flows,” Phys. Fluids, 14, L73-L76 (2002).
流れの制御により乱流チャネル流,乱流管内流,乱流境界層等の摩擦抵抗低減を目指す試みが精力的に続けられている.その工学的な有用性は言うに及ばず,乱流現象の本質の理解に近づくという点からもチャレンジングな課題である.本論文は乱流を制御することで壁面摩擦抵抗低減を目指した大型研究プロジェクトの一貫として生まれた研究である.そして摩擦抵抗を減少させるためにはどのような物理量に注目し,その制御を目指すのが有効であるかという難しいが極めて重要な問題に正面から取り組んだものである.
論文中では局所的な壁面摩擦抵抗への寄与を,層流(定常成分)からの寄与,乱流(レイノルズ応力)からの寄与,非一様性からの寄与および過渡的な成分からの寄与の4つに分類し,その中で壁面近傍のレイノルズ応力が支配的な貢献をしていることを示している.そして,乱流チャネル流,乱流円管内流,乱流境界層のそれぞれの流れ場に対して,レイノルズ応力と壁面摩擦抵抗を結びつける恒等式を導出している.さらに,求まった式を通常の乱流,壁面からの一様噴出し或いは一様吸込みにより抵抗が制御された乱流のそれぞれに対して適用し,その有効性を示している.
本論文がその一翼を担う乱流制御による摩擦低減効果を目指した大型研究プロジェクトにおいて,受賞者が当プロジェクト推進の中堅的役割を果たしたと認められ,その業績も高く評価される.今後,流体力学の発展を推進する主要メンバーに育ち,乱流分野を中心として流体力学の発展大いに貢献してくれるものと期待される.