富田浩文(海洋開発研究機構地球環境フロンティア研究センター 研究員)
正20面体準一様格子を用いた非静力学大気大循環モデルの開発
(a) H. Tomita, M. Tsugawa, M. Satoh and K. Goto, “Shallow water model on a modified icosahedral geodesic grid by using spring dynamics”, J. Comput. Phys., 174, 579-613 (2001).
(b) H. Tomita & M. Satoh, “A new dynamical framework of nonhydrostatic global model using the icosahedral grid”, Fluid Dyn. Res., 34, 357-400 (2004).
(c) H. Tomita, H. Miura, S. Iga, T. Nasuno and M. Satoh, “A global cloud-resolving simulation: Preliminary results from an aqua planet experiment”, Geo. Res. Lett., 32, L08805 (2005).
地球温暖化などの気候変化や数日より先の天気変化を客観的に予測するうえでは全球大気の数値モデル(以下全球モデル)は不可欠である.このような予測を行ううえでの大きな障害の1つは,全球モデルが水平方向の広がりが10km程度しかない積乱雲を表現するだけの解像度を持たないことであった.積乱雲は,熱・水蒸気・運動を鉛直方向に輸送して大気の鉛直構造の決定に寄与するだけでなく,台風や低気圧などの総観規模/中規模擾乱と相互作用することにより,これらの擾乱の発達・組織化に寄与する重要な働きをする.従来の全球モデルでは,何らかの仮定に基づいて,積乱雲の効果を「解像できるスケール」の物理量でパラメタライズしてきた.
受賞者らのグループは,地球シミュレータの誕生を契機に積乱雲を解像する全球モデルの実現を志し,いくつもの困難を乗り越えて水平解像度3.5kmの全球モデルを開発することに成功した.受賞者らはまず,極付近でも解像度が偏らず並列計算にも向いたモデルとして,現在広く用いられている球関数を用いたスペクトルモデルに代わり,全球を正20面体で覆った格子モデルを採用し,仮想的なバネ力学を用いた最適な格子生成法も考案して,浅水流に適用可能なことを実証した(Tomita et al., 2001).次に,縦横比が1程度の積乱雲を表現するために,従来の全球モデルで仮定されていた静力学近似を用いない「非静力学方程式系」に基づきつつ,質量とエネルギーを保存する全球モデルを開発し,大気の基本的な3次元運動をよく再現することを示した(Tomitaand Satoh, 2004).更に,受賞者らはこの全球モデルを用いて,水惑星(全球を海で覆われた地球)ながら水平解像度3.5kmで10日間のシミュレーションを行い,熱帯地方を赤道に沿って数十日で一周する大規模な対流活動とこれに伴う多様な階層構造を観測と良く対応する形で現実的に再現することに成功した(Tomita et al., 2005).積乱雲をほぼ解像する全球大気モデルのシミュレーションに成功したのは候補者らのグループが世界で初めてであり,今後,気象・気候のシミュレーション研究に新しい展開をもたらすものと期待される.受賞者はこのような画期的なシミュレーションの実現に不可欠であった一連の新しい数値解析手法の開発に中心的役割を果たしてきており,その業績は高く評価できる.