余偉明(東北大学大学院理学研究科)
Weiming Sha and Koichi Nakabayashi, On the structure and formation of spiral Taylor-G o¨rtler vortices in spherical Couette flow, Journal of Fluid Mechanics, 431, 323–345 (2001).
同心 2 球殻間の流れは地球や惑星の循環流とかかわるのはもちろん球面軸受けなど工学上の用途も広がるが,2 円筒間のテイラー・クェット流ほどには研究が進んでいないのが現状である.80年代,90年代の一連の室内実験により層流乱流遷移過程における多様な 3 次元構造の分岐が次第に明らかにされてきた.しかし,渦構造から踏み込んでその形成メカニズムまでに迫るには実験だけでは限界があり,信頼のできる直接数値シミュレーションが待たれていた.
本論文では,内球が回転する同心 2 球殻間におけるクェット流の 3 次元的遷移の直接数値シミュレーションを,小さくはないすき間比 β = (R2−R1) / R1 = 0.14(R1,R2は内球,外球の半径)の場合について行った.レイノルズ数 Re = Ω R12 / ν(Ω は内球の角速度,ν は流体の動粘性係数)をRe = 1100まで非常にゆっくりと上げていき,臨界レイノルズ数(Re = 940)での赤道に沿うトーラス状テイラー・ゲルトラー渦対の生成, 超臨界レイノルズ数領域でその周囲に出現するスパイラル状テイラー・ゲルトラー渦の形成についての中林らの室内実験の結果(1983)を見事に再現した.
3 次元非圧縮性ナビエ・ストークス方程式の数値解法を独自に開発することから始めている.近似因子法を工夫することによって,空間のみならず時間についても 2 次精度を保証する速度-圧力デカップリング型差分計算アルゴリズムを編み出した.これにより計算コストの削減が図られ高精度の数値計算が可能になった.数値データから渦構造を同定すると同時に,実験からは得られない高精度数値計算のきめ細かい情報を機動的に駆使して,スパイラル状テイラー・ゲルトラー渦の生成・維持機構を初めて明らかにした.渦度の経度成分の発展を支配する渦度方程式の各項の寄与を比較し,スパイラル渦の生成にはティルティング項が効くこと,維持にはティルティング項と伸長項の両方が寄与することを決定的な形で示した.
余氏は名工大在職中に室内実験にも参加した.様々な角度から立体的にアプローチすることによって現象に対する固有のイメージが醸成され,スパイラル渦構造の明快な描像として結実したと考えられる.これから先乱流に至るまでの道のりは遠く,将来の着実な発展の礎になる研究として高く評価できる.