本会会員で募集翌年の3月末日において40歳未満であり,流体力学の発展に寄与した論文を査読のある雑誌に発表し,独創性と将来性に富むと認められる個人に授与する.
なお,出産・育児により研究に専念できない期間がある場合,一子につき1ないし2年延長する.その延長期間は,産休・育休取得などその期間が定量的に算定できるものに基づき,それら休職期間が一回の出産につき通算8週間以上であれば 2年,8週間未満であれば 1年とする.対象とする休職期間は,延長期間を考慮しない場合に最後の応募資格を有する年度の7月末日までに開始したものとする.
ただし,対象は最近の業績(上記延長期間を除いた10年以内)とし,特定の論文に制限するものではない.既に論文賞または竜門賞を受賞した者を除く.また,論文賞や技術賞(共著者を含む)と同時には応募できないものとする.
阿部 圭晃(東北大学流体科学研究所)
移動変形を含む複雑形状周りの高次精度圧縮性流体解析のための保存型メトリクスとその応用に関する研究
(a)Yoshiaki Abe, Taku Nonomura, Nobuyuki Iizuka and Kozo Fujii, Geometric interpretations and spatial symmetry property of metrics in the conservative form for high-order finite-difference schemes on moving and deforming grids, Journal of Computational Physics, Vol.260 (2014), pp.163-203
(b)Yoshiaki Abe, Takanori Haga, Taku Nonomura and Kozo Fujii, On the freestream preservation of high-order conservative flux-reconstruction schemes, Journal of Computational Physics, Vol.281 (2015), pp.28-54
(c)Yoshiaki Abe, Taku Nonomura, and Kozo Fujii, Flow instability and momentum exchange in separation control by a synthetic jet, Physics of Fluids, Vol.35 (2023), 065114
阿部氏は,空間高次精度化と保存量保存性の両者を満足する保存型メトリクスを開発し,さらに幾何対称性を導入することによって計算の安定性が向上することを示した.さらにこの成果を,シンセティックジェットによる翼周り剥離流れ制御等様々な問題へ適用し,翼周りの剥離制御に関する重要な知見を得ている.この計算手法は,国際的オープンソースにも採用され,世界的にも広く利用されている.また,流体力学をベースに多様な分野への貢献を遂げている.以上より,候補者は流体力学の研究者として極めて有望であり,日本流体力学会竜門賞にふさわしいと判断できる.
犬伏 正信(東京理科大学理学部)
力学系理論に基づくデータ駆動型流体力学研究
(a)Masanobu Inubushi, Shin-ichi Takehiro, Michio Yamada, Regeneration cycle and the covariant Lyapunov vectors in a minimal wall turbulence, Physical Review E 92, 023022 (2015).
(b)Masanobu Inubushi and Susumu Goto, Transfer learning for nonlinear dynamics and its application to fluid turbulence, Physical Review E 102, 043301 (2020).
(c)Mikito Konishi, Masanobu Inubushi, and Susumu Goto, Fluid mixing optimization with reinforce ment learning, Scientific Reports 12, 14268 (2022).
犬伏氏は,京都大学,民間企業,大阪大学にて力学系,物理系の問題をデータ駆動型手法の観点から捉え,多様な成果を挙げてきた.流体力学分野では,機械学習手法の一つであるリザーバーコンピューティング法を乱流力学系に適用し乱流予測の転移学習を提案し,さらに流体混合問題に対して,深層強化学習がその最適化に対して極めて有効であることを示した.このように,流体力学を力学系理論の観点から捉え,応用問題解決につながる成果を挙げており,今後も新たな展開が期待できる.
武石 直樹(京都工芸繊維大学機械工学系)
単一および多体カプセルの流動に関する膜-流体連成解析
(a)Naoki Takeishi, Marco Edoardo Rosti, Enhanced axial migration of a deformable capsule in pulsatile channel flows, Phys. Rev. Fluids 8:L061101.
(b)Naoki Takeishi, Hiroshi Yamashita, Toshihiro Omori, Naoto Yokoyama, Shigeo Wada, Masako Sugihara-Seki, Inertial migration of red blood cells under a Newtonian fluid in a circular channel, J. Fluid. Mech. 2022, 952:A35.
(c)Naoki Takeishi, Marco E. Rosti, Yohsuke Imai, Shigeo Wada, Luca Brandt, Haemorheology in dilute, semi-dilute and dense suspensions of red blood cells, J. Fluid. Mech. 872:818-848.
武石氏は,自ら開発したGPU計算技法を駆使して,粘弾性体,特に赤血球の低レイノルズ数管内流れの挙動に関する詳細な数値シミュレーションを行い生体内およびマイクロ流体デバイス内における細胞流動に関する力学と,赤血球サスペンションのレオロジー動態を明らかにし,さらに自律的な脈動を再現するなど,重要な成果を挙げた.得られた研究成果は,流体力学分野のみならず生命科学系分野へも発信しており,今後も流体力学の立場から大きな貢献をなすものと期待できる.