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竜門賞 

本会会員で当該年度末において40歳未満であり,過去10年以内に査読のある雑誌に流体力学に関する論文を発表し,これが流体力学の進歩発展に寄与し,独創性と将来性に富むと認められた一個人に授与される.

受賞者および選考理由(2019年度)(1) 

受賞者

関本敦(大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻)

対象業績

統計的に定常な一様せん断乱流の普遍的秩序構造の研究

関連論文

(a) A. Sekimoto, S. Dong, J. Jiménez: “Direct numerical simulation of statistically stationary and homogeneous shear turbulence and its relation to other shear flow”, Phys. Fluids, 28, 035101 (2016).

(b) S. Dong, A Lozano-Durán, A. Sekimoto, J. Jiménez: “Coherent Structures in Statistically Stationary Homogeneous Shear Turbulence”, J. Fluid Mech. 816, 167-208 (2017).

(c) Sekimoto, J. Jiménez: “Vertically localised equilibrium solution in the large-eddy simulations of homogeneous shear flow”, J. Fluid Mech. 827, 225-249 (2017).

選考理由

統計的に定常な一様剪断乱流(SS-HST)を一貫して研究しており,論文(a)ではSS-HST用の高精度DNS計算コードの開発が示されている.通常の計算におけるリメッシュの作業を回避した特殊な境界条件やコンパクトスキームを含むコードは著者のオリジナルであり,詳細な精度の検討も含めきちんと構築されている.パラメータを変えた数多くのケースの計算により,SS-HSTの計算空間依存性や普遍的な流れ場の構造をかなりの確信度を持って説明し,壁乱流の対数領域との類似性を示した労作である.同氏の研究グループ以外からの引用も多く,SS-HSTに関する最近の代表的論文と言える.今後有限の計算領域が渦構造に与える影響がより明らかになれば,壁乱流を含む剪断乱流の研究に大きな貢献をすることが期待される.論文(b)は上述のコードを用いて筆頭著者Dong氏が流れの構造理解を行ったもので,応募者の貢献度は高くないが,コードの応用性を示している.論文(c)ではコードをLESに拡張し,高レイノルズ数のSS-HSTの定常解や周期解をニュートン法で探索した意欲的な研究である.

SS-HSTに着目し,新たにコードを開発して乱流構造を解明しようとした点,LESを用いて高レイノルズ数の流れの解を探索した点などが独創的である.
流体力学への貢献度について一様剪断乱流を高精度に計算する手法を開発した点,丹念な計算でSS-HSTの近年の代表作と見られる成果を出した点で貢献度は高い.
関連分野への応用の可能性について,本研究で得られた渦構造や不変解の知見は剪断乱流一般の理解に役立つと考えられ,またすでに磁性流体や自然対流等の論文でも引用されており応用性は高い.

同氏の将来性について,流体力学,計算手法,流れ場の理解など十分な力量に基づいて丹念な研究を実施しており,今後も優れた研究成果を挙げて乱流研究に貢献することが期待される.以上の点から関本敦氏は竜門賞を受けるのにふさわしい.

受賞者および選考理由(2019年度)(2) 

受賞者

高垣直尚(兵庫県立大学大学院工学研究科 機械工学専攻)

対象業績

海洋表面を通しての運動量・スカラ輸送機構に関する研究

関連論文

(a) N. Takagaki, S. Komori, N. Suzuki, K. Iwano, T. Kuramoto, S. Shimada, R. Kurose, and K. Takahashi, “Strong correlation between the drag coefficient and the shape of the wind sea spectrum over a broad range of wind speeds”, Geophysical Research Letters, 39, L23604 (2012).

(b) N. Takagaki, S. Komori, “Air-water mass transfer mechanism due to the impingement of a single liquid drop on the air-water interface”, International Journal of Multiphase Flow, 60, pp. 30-39 (2014).

(c) N. Takagaki, R. Kurose, Y. Tsujimoto, S. Komori, K. Takahashi, “Effects of turbulent eddies and Langmuir circulations on scalar transfer in a sheared wind-driven liquid flow”, Physics of Fluids, 27, 016603 (2015).

選考理由

大気・海洋の流れを扱う環境流体力学において,海表面を通して行われる運動量・熱・物質の輸送過程は正確な評価が難しい問題であるが,高垣直尚氏は気液界面付近の微細な乱流構造の実験計測等を通して運動量・スカラー量の輸送機構を解明する研究を続けてきている.

同氏は,まず,海上風速70m/sにも相当する海況を模擬することができる大型の台風シミュレーション水槽を設計・製作し,この装置を用いて,高風速の環境下で起こる風波気液界面を通した運動量輸送の機構を解明する研究を行った.このような極限状況下の実験では,液滴が飛散することなどの理由で正確な測定には困難を伴うが,壁面に付着する液滴の除去方法を考案したり,位相ドップラー流速計を使用して粒子の大きさで条件付けする手法を用いるなど,卓抜したアイデアと高度な技量でこの問題を解決し,レイノルズ応力等の乱流輸送量を直接測定することに成功した.また,この測定から導かれた知見も非常に重要なものである.従来,風波気液界面に働く抗力の指標となる抗力係数は,超高速の条件下でも風速に対して単調に増加すると考えられていたが,実際には飽和してほぼ一定の値にとどまることが見出された.最近の観測でもこれを支持する結果が得られている.台風のシミュレーションにおいて,大気と海洋との間における運動量交換は,台風の発達に大きな影響を与える重要な過程であるため,強風下における運動量輸送の正確な測定結果と,そこから導かれる運動量輸送の評価法は,台風の強度予測に極めて大きなインパクトを与えるものである.

同氏はまた,気液界面を通してのスカラー輸送機構の解明の研究でも成果を上げている.降雨シミュレーション装置を使用したガス吸収実験により,液滴が液面に衝突する際のスカラー量輸送を調べる研究を行ったが,PIVと,RGB分離法を利用したPLIFを巧みに用いて,液相側で渦が形成される様子やそこに二酸化炭素ガスが巻き込まれる過程を可視化することに成功し,渦輪により気液間の物質輸送が促進される表面更新機構をはじめて明らかにしている.風波気液界面でのスカラー量輸送におけるラングミュア循環流の二次的流れの影響を,直接数値計算によって詳細に調べた研究も含めて,これらのスカラー輸送機構を解明した結果は,二酸化炭素の乱流輸送量予測などを通して,環境評価の高精度化にもつながるものと期待される.

同氏は,継続して精力的な研究活動を行っており,今後更なる研究成果が期待できる.以上より,高垣直尚氏は,今後の流体力学の発展への顕著な貢献を期待できる若手研究者として竜門賞にふさわしい.

過去の受賞者 

・ 2016年度受賞者(1)
松浦 一雄/空力自励音の発振機構の解明とその無秩序化に関する研究
・ 2016年度受賞者(2)
杉本 憲彦/地球流体における渦からの自発的な重力波放射の研究
・ 2015年度受賞者(1)
長谷川洋介/壁乱流における伝熱及び運動量輸送の最適制御に関する研究
・ 2015年度受賞者(2)
河合宗司/高レイノルズ数流れにおけるLarge-eddy simulationの壁面モデルに関する研究
・ 2014年度受賞者(1)
田川義之/流動場中の粒子・気泡クラスターのラグランジュ的解析
・ 2014年度受賞者(2)
田口智清/温度場を駆動源とする低圧/マイクロスケール気体流に関する分子運動論的研究
・ 2013年度受賞者
大西 領/微小慣性粒子の乱流衝突機構の解明と高解像度気象シミュレーションへの応用
・ 2012年度受賞者
玉野真司/粘弾性流体の乱流境界層流れにおける抵抗低減メカニズムの解明
・ 2011年度受賞者(1)
板野 智昭/平板間ミニマム流れの周期解
・ 2011年度受賞者(2)
田中 智彦/固気混相乱流のPIV計測と散逸構造
・ 2010年度受賞者(1)
野口尚史/海洋中の層状微細構造の実態と形成・発達機構に関する研究
・ 2010年度受賞者(2)
鈴木崇夫/数値流体力学と実験流体力学の融合による噴流の不安定波と放射音の研究
・ 2009年度受賞者(1)
小林宏充/乱流構造に基づくサブグリッドスケールモデルの開発
・ 2009年度受賞者(2)
長津雄一郎/Viscous fingering の反応性流体力学の実験研究
・ 2008年度受賞者
長田孝二/安定および不安定密度成層乱流場における乱流輸送現象の解明
・ 2007年度受賞者(1)
(a) Susumu Goto & Shigeo Kida: “Reynolds-number dependence of line and surface stretching in turbulence: folding effects,” J. Fluid Mech., 586, 59-81 (2007),
(b) Susumu Goto & J. C. Vassilicos: “Self-similar clustering of inertial particles and zero-acceleration points in fully developed two-dimensional turbulence,” Phys. Fluids, 18, 115103 1-10 (2006).
・ 2007年度受賞者(2)
Koji Fukagata, Kaoru Iwamoto & Nobuhide Kasagi: “Contribution of Reynolds stress distribution to the skin friction in wall-bounded flows,” Phys. Fluids, 14, L73-L76 (2002).