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竜門賞 

本会会員で当該年度末において40歳未満であり,過去10年以内に査読のある雑誌に流体力学に関する論文を発表し,これが流体力学の進歩発展に寄与し,独創性と将来性に富むと認められた一個人に授与される.

受賞者および選考理由(2020年度)(1) 

受賞者

渡邉智昭(名古屋⼤学⼤学院⼯学研究科)

対象業績

安定密度成層下のせん断乱流の乱流構造と拡散現象に関する研究

関連論文

(a) T. Watanabe, J. J. Riley, S. M. de Bruyn Kops, P. J. Diamessis, and Q. Zhou, "Turbulent/non-turbulent interfaces in wakes in stably stratified Fluids," J. Fluid Mech., Vol. 797, pp. 1-11, (2016)

(b) T. Watanabe, J. J. Riley, K. Nagata, R. Onishi, and K. Matsuda, "A localized turbulent mixing layer in a uniformly stratified environment," J. Fluid Mech., Vol. 849, pp. 245-276, (2018)

(c) T. Watanabe, J. J. Riley, K. Nagata, K. Matsuda, and R. Onishi, "Hairpin vortices and highly elongated flow structures in a stably stratified shear layer," J. Fluid Mech., Vol. 878, pp. 37-61, (2019)

選考理由

自由せん断乱流において出現する乱流と非乱流領域の界面層は,乱流のエントレインメント過程において重要であり,これらの乱流の解析には乱流領域を適切に検出することが必要不可欠である.乱流領域の検出には,従来は渦度に着目して解析されてきた.一方,安定密度成層下では,内部重力波の存在により渦度が生じるため,従来の渦度による検出手法は適用できない.そこで本研究では,内部重力波が伝播しないポテンシャル渦を用いて,内部重力波を伴う流れ場から乱流領域を判別する新しい手法を提案した.この新手法により,安定成層時の乱流構造を,内部重力波の影響を分離することで,抽出・解析することに成功し,本研究の独創的な成果として評価できる.この新手法により,内部重力波が乱流場に及ぼす影響を定量化した.また,安定密度成層下の乱流混合層中のヘアピン渦などの乱流構造の特徴を見出し,さらに,大規模直接数値計算により,乱流混合層内における超大規模構造の存在を示し,これによる流れ場や乱流への影響を明らかにするといったように,流体力学全般への貢献度も高いと評価できる.こういった安定密度成層時の乱流に関する知見は,地球流体力学,機械工学,水理学など,関連分野への応用性も高い.応募者の研究業績は,主要論文以外にも,流体力学分野の著名な雑誌に掲載されたものである.これらの業績は,若手研究者として極めて優れたものであり,今後の発展が大いに期待できる.以上の理由により渡邉智昭氏は竜門賞にふさわしいと評価する.

受賞者および選考理由(2020年度)(2) 

受賞者

松田景吾(海洋研究開発機構地球情報基盤センター)

対象業績

乱流中の慣性粒子クラスタリングが雲放射・レーダー反射に及ぼす影響の解明

関連論文

(a) K. Matsuda, R. Onishi, R. Kurose, and S. Komori, "Turbulence effect on cloud radiation," Phys. Rev. Lett., Vol. 108, 224502, (2012)

(b) K. Matsuda, R. Onishi, M. Hirahara, R. Kurose, K. Takahashi, and S. Komori, "Influence of microscale turbulent droplet clustering on radar cloud observations," J. Atmos. Sci., Vol. 71, pp. 3569-3582, (2014)

(c) K. Matsuda, and R. Onishi, "Turbulent enhancement of radar reflectivity factor for polydisperse cloud droplets," Atmos. Chem. Phys., Vol. 19, pp. 1785-1799, (2019)

選考理由

地球大気中の対流雲内では,多数の雲粒が乱流場中を運動している.雲粒のように多数の微小な慣性粒子が乱流中を運動する場合には,慣性力によって粒子が乱流渦からはじき出されることにより,慣性粒子クラスタリングという空間不均一性が生じる.この雲粒のクラスタリングにより,雲内部での電磁波の放射伝達特性に影響を及ぼすことが指摘されてきたものの,これまで研究例はなかった.そこで本研究では,高レイノルズ数一様等方性乱流の慣性粒子を含む大規模直接数値計算を行い,ラグランジアン粒子の離散的な分布に対して放射伝達を計算する新しい手法を開発し,慣性粒子クラスタリングによる放射伝達への影響を定量的に評価した.また,気象レーダーによる雨雲観測を想定した数値計算により,現実的な積雲の条件で,慣性粒子クラスタリングがレーダー反射強度を増加させることを定量的に評価し,レーダー観測によって積雲内の乱流状態を推定できる可能性を示した.これらの研究成果は世界的にも初めての取り組みであり,極めて独創的だと評価できる.また,クラスタリングによる数密度変動スペクトルが,通常のスカラー変動スペクトルとは著しく異なる性状を持つことを示すなど,乱流中の慣性粒子クラスタリングに関する知見は流体力学への貢献度も高い.さらに,雲物理など気象分野に直接応用できるのみならず,噴霧やダストを含む流れの機械系分野,宇宙の惑星形成にも応用の可能性のある基礎的かつ重要な知見を与えている.応募者は,雲物理学に関連した慣性粒子に着目したテーマで,数多くの業績を挙げており,今後の発展も期待できる.以上の理由により松田景吾氏は竜門賞にふさわしいと評価する.

受賞者および選考理由(2020年度)(3) 

受賞者

沖野真也(京都大学大学院工学研究科)

対象業績

高シュミット数のスカラーによって形成される密度成層流体中の減衰乱流に関する研究

関連論文

(a) S. Okino, and H. Hanazaki, "Decaying turbulence in a stratified fluid of high Prandtl number," J. Fluid Mech., Vol. 874, pp.821-855, (2019)

(b) S. Okino, and H. Hanazaki, "Direct numerical simulation of turbulence in a salt-stratified fluid," J. Fluid Mech., Vol. 891, A19, (2020)

選考理由

海洋など安定密度成層流体の成層は,熱や塩分などのスカラーによって形成される.これらのシュミット数𝑆𝑐は,しばしば大きな数値を取ることが知られており,例えば海洋の場合の熱と塩分については𝑆𝑐 = 7と𝑆𝑐 = 700である.従来の密度成層乱流の数値計算では,ほとんどの場合に𝑆𝑐 = 1に限定した計算がなされてきた.そこで本研究では,海水といった高シュミット数のスカラーによって形成される密度成層流体を対象として,減衰乱流の直接数値計算を実施し,コルモゴロフ・スケール以下の小スケールにおけるスカラー輸送の性質を明らかにした.密度成層乱流では,浮力の影響がコルモゴロフ・スケールにまで及ぶものの,ポテンシャルエネルギーが大きな値をもつ領域が空間的に一部に集中して雲のような構造を示すことを見出し,これに対応してポテンシャルエネルギースペクトルは大・小二つのスケールの中間スケールで小さな値をとり,成層乱流の基本スケールとほぼ一致することを示した.このような現象は𝑆𝑐 < 70の場合には見られず,コルモゴロフ・スケールとバチェラー・スケールの差が非常に大きい超高シュミット数のスカラーに固有の特徴であることを明らかにした.これらの研究成果は独創的であるとともに,高シュミット数安定密度成層流体の基礎的な知見として有用であり,流体力学への貢献も大きいと評価できる.超高シュミット数の流れ場は,海洋のみならず,液相での化学反応にも現れるため,広く共通の事象として,海洋物理,応用化学の分野に応用できるものと期待できる.応募者の研究業績は,流体力学の著名な雑誌に掲載されており,将来性も期待できる.以上の理由により沖野真也氏は竜門賞にふさわしいと評価する.

過去の受賞者 

・ 2019年度受賞者(1)
関本 敦/統計的に定常な一様せん断乱流の普遍的秩序構造の研究
・ 2019年度受賞者(2)
高垣直尚/海洋表面を通しての運動量・スカラ輸送機構に関する研究
・ 2018年度受賞者(1)
小澤啓伺/感温塗料計測法を用いた高速熱流体現象の解明
・ 2018年度受賞者(2)
野々村拓/高速流からの音響波解析のための高次精度重み付き差分法の研究
・ 2017年度受賞者(1)
鈴木康祐/埋め込み境界.格子ボルツマン法に基づく移動境界流れの数値計算法の開発と その羽ばたき飛翔への応用
・ 2017年度受賞者(2)
北村圭一/衝撃波において安定かつ高精度な流体計算手法の提案
・ 2016年度受賞者(1)
松浦 一雄/空力自励音の発振機構の解明とその無秩序化に関する研究
・ 2016年度受賞者(2)
杉本 憲彦/地球流体における渦からの自発的な重力波放射の研究
・ 2015年度受賞者(1)
長谷川洋介/壁乱流における伝熱及び運動量輸送の最適制御に関する研究
・ 2015年度受賞者(2)
河合宗司/高レイノルズ数流れにおけるLarge-eddy simulationの壁面モデルに関する研究
・ 2014年度受賞者(1)
田川義之/流動場中の粒子・気泡クラスターのラグランジュ的解析
・ 2014年度受賞者(2)
田口智清/温度場を駆動源とする低圧/マイクロスケール気体流に関する分子運動論的研究
・ 2013年度受賞者
大西 領/微小慣性粒子の乱流衝突機構の解明と高解像度気象シミュレーションへの応用
・ 2012年度受賞者
玉野真司/粘弾性流体の乱流境界層流れにおける抵抗低減メカニズムの解明
・ 2011年度受賞者(1)
板野 智昭/平板間ミニマム流れの周期解
・ 2011年度受賞者(2)
田中 智彦/固気混相乱流のPIV計測と散逸構造
・ 2010年度受賞者(1)
野口尚史/海洋中の層状微細構造の実態と形成・発達機構に関する研究
・ 2010年度受賞者(2)
鈴木崇夫/数値流体力学と実験流体力学の融合による噴流の不安定波と放射音の研究
・ 2009年度受賞者(1)
小林宏充/乱流構造に基づくサブグリッドスケールモデルの開発
・ 2009年度受賞者(2)
長津雄一郎/Viscous fingering の反応性流体力学の実験研究
・ 2008年度受賞者
長田孝二/安定および不安定密度成層乱流場における乱流輸送現象の解明
・ 2007年度受賞者(1)
(a) Susumu Goto & Shigeo Kida: “Reynolds-number dependence of line and surface stretching in turbulence: folding effects,” J. Fluid Mech., 586, 59-81 (2007),
(b) Susumu Goto & J. C. Vassilicos: “Self-similar clustering of inertial particles and zero-acceleration points in fully developed two-dimensional turbulence,” Phys. Fluids, 18, 115103 1-10 (2006).
・ 2007年度受賞者(2)
Koji Fukagata, Kaoru Iwamoto & Nobuhide Kasagi: “Contribution of Reynolds stress distribution to the skin friction in wall-bounded flows,” Phys. Fluids, 14, L73-L76 (2002).