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受賞論文および選考理由(2025年度) 

掲載日:2026年2月16日

受賞者

山口 康隆(大阪大学), 楠戸 宏城(東北大学),Surblys Donatas(東北大学),大森 健史(大阪公立大学),菊川 豪太(東北大学)

対象論文

Yasutaka Yamaguchi, Hiroki Kusudo, Donatas Surblys, Takeshi Omori and Gota Kikugawa,
“Interpretation of Young's equation for a liquid droplet on a flat and smooth solid surface:
mechanical and thermodynamic routes with a simple Lennard-Jones Liquid,”
The Journal of Chemical Physics, Vol. 150, 044701 (2019).

選考理由

本論文は,固体面に置かれた分子スケールの平衡状態の液滴について,Youngの式に対するミクロスケールでの解釈を示したものである.その方法論として,まず,検査面を通過する分子の移動および分子間相互作用の力線を考えることで,分子動力学法により得られるミクロの情報を応力場というマクロの概念に接続した上で,接触線近傍に閉じた検査面に囲まれた領域を設け,その検査体積に対する力学的なバランスを詳細に評価した.この力学的描像を熱力学的な思考実験と組み合わせることで固液,固気の界面張力を抽出し,「固液,固気界面張力を界面近傍の応力の不均一性を介して適切に力学的に定義すれば,流体が固体壁面から接線方向の力を受けないという条件でYoungの式が成り立つ」という結論を導いた.この条件は,固体壁面が滑らかな平面であり,流体分子に対して壁面接線方向に均一な場をつくる場合に満たされる.加えて,熱力学積分法を導入することで,固液,固気の界面自由エネルギーを,「固体から流体を熱力学的に準静的な可逆過程により引き剥がす際に必要となる仕事」というかたちで抽出することに成功し,これが上記の力学的な定義と整合することを示した.これにより,特に単純流体以外では困難な応力場の抽出を介さずに界面張力を抽出する道筋を開いた.

このように本論文は,分子動力学法で得られるミクロな情報を応力場というマクロな概念に結びつけ,さらに熱力学的手法と組み合わせることで,界面張力,および濡れについて,力学的応力場と自由エネルギー変化の両面から整合した解釈を提示した,非常に独創的な研究である.Youngの式に対するミクロスケールでの解釈を示した点は,流体力学への貢献度も高い.熱力学積分法により,固液,固気界面自由エネルギーを力学的定義と整合的に抽出した知見には恒久性があり,幅広い分野での応用や現象解明も期待される.また,論文の完成度も高く,国際的評価に値する成果である.よって日本流体力学会論文賞として相応しいと判断できる.