コンテンツの開始

受賞論文および選考理由(2023年度) 

掲載日:2024年7月3日

受賞者

田口 智清(京都大学情報学研究科),辻 徹郎(京都大学情報学研究科)

対象論文

S. Taguchi and T. Tsuji, Inversion of the transverse force on a spinning sphere moving in a rarefied gas, J. Fluid Mech. 933, A37(1-51) (2022).

選考理由

本論文は,希薄気体中を並進運動する回転球に作用する揚力を対象とし,低マッハ数条件のもとでBhatnagar–Gross–Krook (BGK) モデルに基づきボルツマン方程式を接合漸近解析して揚力係数を算出する表式を導出し,クヌッセン数がある閾値を超えると揚力の符号が変わることを見出した.本論文では,通常のマグナス効果が表れるクヌッセン数が小さい極限(連続体)と逆マグナス力が作用するクヌッセン数が大きい極限(自由分子流)の間の領域について,丁寧な理論展開を通して揚力の求解に成功しており,希薄気体の逆マグナス効果の発現機構をクヌッセン数の観点から明らかにしている点に独創性が認められ,論文内容の恒久性や完成度も高く評価できる.

以上の通り,本論文はクヌッセン数が回転球に発生する揚力に及ぼす効果を明らかにすることで逆マグナス力の問題を解決し,流体力に対する新知見をもたらしたという点において希薄気体力学上価値ある業績と認められ,今後の流体力学の発展に大きく寄与すると期待されるものである.