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受賞論文および選考理由(2022年度) 

掲載日:2023年9月28日

受賞者

久谷雄一(東北大学),戸谷晃輔(東北大学),河合宗司(東北大学)

対象論文

Y. Kuya, K. Totani, S. Kawai, Kinetic energy and entropy preserving schemes for compressible flows by split convective forms, J. Comput. Phys., 375, 823–853 (2018)

選考理由

本論文では,圧縮性流れを安定かつ高精度に解くための計算スキームを提案している.質量,運動量,全エネルギーの保存則を解くのに加えて,運動エネルギー保存およびエントロピー保存に関する支配方程式レベルでの一貫性を離散空間でも満たす離散化スキームを考案することで,一般的に用いられる数値粘性を付加することなく数値安定性の大幅な向上を達成し,数値粘性の利用に伴う計算精度の低下を抑制している.特に既存スキームの問題点がエントロピー保存性を満足していないことに由来することを数値実験を通じて明らかにするとともに,一般座標系での高次精度スキームへの拡張も可能であることを示す一方で,実用を念頭に置いた格子解像度が不連続に変化するハンギングノード境界における上記物理量の保存性も満たす方法も構築していることが評価される.

提案スキームは中心差分の組み合わせだけで構築されているためプログラム実装も容易であることから,圧縮性流れの計算手法の新たなスタンダードとなることが大いに期待できる.現代の流体力学において,数値シミュレーションは理論,実験と並ぶ重要な解析技術であり,本離散化スキームを用いた圧縮性流れの解析が今後の流体力学の発展に大きく寄与すると期待されるものである.