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受賞論文および選考理由(2020年度) 

掲載日:2021年5月26日

受賞者

鈴木龍汰(東京農工大学),長津雄一郎(東京農工大学),Manoranjan Mishra(Indian Institute of Technology Ropar),伴 貴彦(大阪大学)

対象論文

X. Suzuki, Y. Nagatsu, M. Mishra, and T. Ban, "Phase separation effects on a partially miscible viscous fingering dynamics," J. Fluid Mech., Vol. 898, A11, (2020)

選考理由

本論文は,狭い間隔の並行平板に挟まれた比較的粘度の高い流体に粘度の低い流体が貫入する場合に見られるViscous fingering(VF)現象について,2液体が全く混ざらない非混和の条件からよく混ざり合う完全混和の条件まで中間の部分混和を含め連続的なパラメータでの実験を行なっている.染料を用いた可視化実験から,非混和,完全混和では典型的なVFが形成されたのに対し,部分混和では貫入する低粘度流体が先端で千切れ液滴化し,その液滴が自発的な移動を起こすことを発見している.さらに,スピノーダル分解型相分離とKorteweg力をモデル化した数値計算を行い,相変化による低粘性溶液の面積の増加量が実験と定量的に一致すること,液滴の移動の時間変化が観察とよく似ていることから,液滴化と液滴の自発的移動がスピノーダル分解型相分離から引き起こされるKorteweg力によることを提唱している.

部分混和において,完全混和や非混和と全く異なる液滴化や液滴の自発移動現象を初めて発見していること,さらにモデル計算との比較から自発移動の駆動力がKorteweg力であることを突き止めていることが評価される.本論文は,化学分野の知見・手法の展開も含めた着眼点の独創性があり,「部分混和系における相分離を伴う界面流体力学」という界面流体力学と化学熱力学を融合させた新しい学問領域の創成を示唆しており,この論文による発展として,化学工学だけでなく拡散・反応を取り扱う種々の流体工学分野の応用事例も想定される.