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受賞論文および選考理由(2012年度) 

掲載日:2013年10月22日

受賞者

深潟康二(慶應義塾大学理工学部・准教授),岩本薫(東京農工大学大学院工学府・准教授),笠木伸英(科学技術振興機構研究開発戦略センター・上席フェロー)

対象論文

Koji Fukagata, Kaoru Iwamoto and Nobuhide Kasagi, “Contribution of Reynolds stress distribution to the skin friction in wall-bounded flows”, Physics of Fluids, Vol.14, L73-L76, (2002) .

選考理由

壁乱流の摩擦抵抗低減は、流体力学における挑戦的課題であるばかりでなく、省エネルギー等の実用上の観点からも極めて重要な位置付けにある。壁乱流において大きな摩擦抵抗が発生するメカニズムが、壁面近傍の縦渦構造の存在とそれに伴う運動量交換の活発化によって説明できることは、ここ数十年の乱流研究によって共通の理解となっている。しかし、本候補論文の発表以前には乱流統計量と壁面摩擦抵抗を定量的に結びつける関係式は見つかっていなかった。本論文では、Navier-Stokes 方程式から出発し、乱流統計量と壁面摩擦抵抗を定量的に結びつける厳密な関係式を導くことで両者の関係を明らかにするとともに、より効果的な摩擦抵抗低減制御の指針を示した。まず,チャネル、円管および平板境界層乱流における壁面摩擦抵抗を異なる力学的効果による寄与分へと分解する厳密な恒等式が導出された。特に、完全発達したチャネル乱流及び円管内乱流では、壁面摩擦抵抗係数は層流抵抗とレイノルズ剪断応力の重み付き積分の和という極めて簡単な関係となることが示された。この恒等式において乱流の寄与を表す右辺第二項の重み係数は壁面近傍で最大で中心では0となることから、壁乱流の摩擦抵抗を低減させるには、特に壁面近傍レイノルズ剪断応力を抑制することが重要であり、この乱流寄与項を大きく負の値とできる制御があれば層流値以下の摩擦抵抗も達成できることが示唆された。さらに、円管内乱流および一様吹出し/吸込みを伴うチャネル乱流の直接数値シミュレーションによって得られたデータにこの恒等式を適用し、レイノルズ応力分布の変化と摩擦抵抗の変化の関係を考察することにより、この恒等式の有用性が確認された。現在、本候補論文は、アクティブ制御あるいはポリマー/界面活性剤の添加による摩擦抵抗低減効果およびそのメカニズムの分析のみならず、新たな制御則や新たなスケーリング則の提案などに応用され、多くの論文で引用されている。

以上のように、本論文は壁乱流の摩擦抵抗低減およびその制御に関して多大な貢献をなしており、我が国における乱流研究の重要な成果の一つであると位置づけられ、日本流体力学会の論文賞を受賞するにふさわしい論文である。