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受賞論文および選考理由(2008年度) 

掲載日:2009年2月17日

受賞者

森西洋平(名古屋工業大学大学院工学研究科・教授)

対象論文

Y. Morinishi, T. S. Lund, O. V. Vasilyev and P. Moin, "Fully Conservative Higher Order Finite Difference Schemes for Incompressible Flow", J. Comput. Phys. Vol.143,  pp.90-124 (1998).

選考理由

CFD(計算流体力学)技術は工学のみならず流体物理の分野でも欠くべからざる手段となっているが、数値解には離散化誤差などの影響が大きいことはよく知られている。また、現実世界で成り立つ質量・運動量・エネルギー等の保存則も数値解では、そうとは限らず、わずかな保存則の破れが大きな誤差や計算の破綻に結び付くことも少なくない。特に時空間的に激しく変動する乱流の直接数値計算(DNS)やラージ・エディ・シミュレーション(LES)においては、数値誤差を最小化する計算スキームは極めて重要である。

本論文は、応用範囲の広い非圧縮流体解析を対象とし、同じ計算格子上でより誤差の少ない解を得ることのできる高次精度計算手法において、保存則を厳密に(正確には丸め誤差の範囲内で)満たす保存性計算スキーム並びにその構築方法の研究に関するものである。1965年のHarlowとWelchらの2次精度スキームの提案以来、より高次精度の保存性スキームは見出されていなかったこと、およびLESではSGS応力が格子幅の2次のオーダーで作用することを考えると、本論文において4次精度保存性スキームを提案し、それ以上の精度の保存性スキームの構築方法を示したことは、画期的かつ意味が大変大きいと言える。

1998年の発表後、本論文で提案されたスキームは、高次精度かつ保存則を満たす代表的スキームのひとつとして多くの流体現象の研究や乱流モデルの検討に用いられているほか、論文中で提案された手法が新たなスキームの研究においても用いられるなど、乱流解析技術や計算スキームの研究に与えたインパクトは大変大きい。

なお、本論文は1999年度の竜門賞の対象論文にもなったが、この受賞以降に本論文が流体力学の研究に与えた影響の大きさを高く評価し、論文賞に値すると判断した。