河原源太(大阪大学大学院 基礎工学研究科 機能創成専攻 非線形力学領域 教授),木田重雄(京都大学大学院 工学研究科機械理工学専攻 流体物理学分野 教授)
Kawahara, G. and S. Kida: Periodic Motion Embedded in Plane Couette Turbulence: Regeneration Cycle and Burst, Journal of the Fluid Mechanics, 449, 291-300 (2001).
乱流の特徴は,多数のモードが互いに強い非線形相互作用を行い,多様な運動形態をとることにある.非線形相互作用の本質を掴み,乱流の統計性を理解し予測することが乱流研究の1つの主題であると言っても過言ではないであろう.本論文は, Couette 乱流を対象として,乱流の非線形性の核を相空間における不安定周期軌道に見いだそうとする努力を結実させた労作である.
Navier-Stokes 方程式で記述される乱流運動は,本来,無限次元の自由度をもつ力学系である.その統計的あるいは動力学的性質が比較的少数のモードのアンサンブルとして記述できるかどうかは数学や物理の興味としてだけではなく,工学などの実際的な問題を考察する場合の指針を与えるという意味でも極めて重要である.本論文は,15000 次元を超える相空間において周期軌道を与えられた精度で決定するという技術的困難を乗り越え,壁乱流における組織渦構造の生成維持メカニズムおよび特徴的な統計量を,不安定周期解を用いてある程度再現することに成功した画期的な論文である.低次元系カオスにおいては不安定周期解による特徴付けがすでに報告されていたが,本研究はそれを未だ低レイノルズ数とはいえ乱流領域にまで拡張したものであり,力学系研究の観点からみても非常に価値がある論文であると言える.
本論文は,5年前に著者の一人が竜門賞を受賞したときに,受賞の主要業績とされた研究成果であり,発表直後から注目を集めた.その後5年間に30件以上の国際学術誌に引用され,同時期以降に掲載された乱流力学関連の論文の中では最も引用されている論文の一つとなっている.本論文を引用した論文は,Couette乱流のみならず様々な乱流中や遷移段階で同様の不安定周期解を見出す研究や本論文で見出した不安定周期解と乱流統計量との関係を直接扱った力学系研究など広範囲にわたっており,本論文のインパクトの強さを示している.
以上のように,本論文は,内容の斬新さ,波及効果,国際的評価の視点から判断して,流体力学論文賞にふさわしいものと評価される.