後藤俊幸(名古屋工業大学生産システム工学科),R. H. Kraichnan(米国)
T. Gotoh and R. H. Kraichnan, Steady-state Burgers turbulence with large-scale forcing, Physics of Fluids, Vol.10, No.11 (1998) 2859-2866.
本論文は,分子粘性が支配的なスケールよりも十分大きなスケールに対応する波数 kf を中心とした波数空間の狭い領域に分布を持つホワイトノイズによって定常状態を維持される強制定常 Burgers 乱流の統計的性質,とくに速度勾配の確率密度関数を解析的方法および数値シミュレーションによって取り扱ったものである.
まず,強制項を持つ Burgers方程式から,速度勾配ξ = ∂ u/∂ xの確率密度関数 Q (ξ)に対するFokker-Planck型のLagrange的な基礎確率方程式を求め, Reynolds数が十分大きいときのその解析的な近似解をξの4つの領域に対して得た. こここでキーポイントとなるのは粘性項の取り扱いであって, 本論文では基本的には基礎確率方程式の粘性項を無視し,粘性を考慮する必要がある部分は解のショック構造に基づく解析を行うことによってその漸近解を求めている.結果は,Q ( ξ )がξ ≫ ξf では Q(ξ) ∝ ξ−2 ξ exp(− ξ 3/(3B))のように急速に減衰する一方,ξ < 0では,ξf ≪ −ξ ≪ R1/2 ξf に対する第 1 の代数的減衰領域 Q(ξ) ∝ ξ 2|ξ|−3 および R1/2 ξf ≪ −ξ ≪ Rξf に対する第 2 の代数的減衰領域 Q(ξ) ∝ |Rξ|−1 が存在し,さらに −ξ ≫ Rξf では, 指数関数的減衰Q ( ξ ) ∝ ( R | ξ | ) − 1 × exp(− a |ξ|/(Rξf ))というものである.ここで,ξf は強制項を特徴づける変形速度で,ξf =B1/ 3( Bはホワイトノイズの 2 次相関)であり, R = ξf /(νk 2)はReynolds数,aはある正の無次元定数である.さらに,rだけ離れた 2 点での速度差に対する確率密度関数 P(∆ u ,r ) の支配方程式を導出し,Q(ξ) との関係を論じている.
当時,これらの漸近形あるいはこれらと異なる漸近形が部分的には種々提案されていたが,それらの検証が十分なされはていなかった.また,この論文の特徴の1つは物理的直感による大胆な仮定のもと特に難しい手法を用いることなくこれらの解析的結果が得られている点にあると考えられるが,それらの仮定は必ずしも明らかなものではないので,数値計算による検証が極めて重要であると考えられる.本論文では Burgers方程式の直接数値シミュレーション及び定常状態の基礎確率方程式に対する数値計算を実行し,理論解析の結果を注意深く丁寧に検証し,両者がよく一致することを見出している.
本論文は,理論と数値計算の密接な連携の下でなされた解析であって,総括的で極めて質の高い論文であり,強制 Burgers乱流の理解に大きく寄与した点が高く評価できる.