堀内潔(東京工業大学大学院理工学 研究科機械宇宙システム専攻)
Kiyoshi Horiuti, A New Dynamic Two-Parameter Mixed Model for Large-Eddy Simulation, Physics of Fluids, Vol.9, No.11 (1997) 3443-3464
本論文は,LESモデルとして,Bardinaモデルを基に新しく考案された項とSmagorinsky型の項の線形結合を用い,それぞれの係数を動的に決定する方法を提案している.LESは,1960年代のSmagorinskyの数値気象予報における提案から始まったが,1970 年に Deardorffが彼のモデルを平板間乱流に適用した後多くの研究者が参加するようになり,特に1980年代に計算機の能力が急激に向上すると共に研究が大変活発になった.ナビエ・ストークス方程式に平滑化(フィルターリング)をかけるとサブグリッドストレス項が発生し,これをどの様に近似するかが LESによる乱流計算のためには本質的に重要となる.この項は計算格子のスケールより大きな流れ(グリッドスケール)と小さな流れ(サブグリッドスケール)との相互作用に関係した項で,3つの部分に分解される.一つはサブグリッドスケール間の相互作用のみを含むレイノルズストレス項, またグリッドスケール間の相互作用のみを含むレオナード項, 最後にサブグリッドスケールとグリッドスケールの間の相互作用に関係したクロス項である.理論では,これらの項をいかに近似するかが重要となるが,本論文では過去の堀内氏本人を含む研究の蓄積の上に,サブグリッドストレス項全体に対する新しいモデルを提案している.
一方,元来の LESでは,モデルの係数は経験的に最も適切と思われる値を予想して用いられていたが,実際の流れに適用すると,多くの問題点が露呈し,これを克服するために係数を時間発展の各ステップで適当な方法によって決定していこうとする動的 LESが 1990 年代初頭のGermano等の研究以来,次第に用いられるようになってきた.本論文では,新しく提案したモデルが必要とする複数の係数を動的に決定するようにして,最適なモデル化を試みている.結果は,チャンネル乱流と混合境界層乱流のDNSデータを,従来のLESモデルよりも良く再現する数値解が得られている.また,サブグリッドスケールとグリッドスケール間のエネルギー輸送に関する詳細な解析がなされている.論文中に事前テスト(priori test)と事後テスト(posteriori test)などのデータの詳細が示されていて,読者は客観的に理論の適切性を判断することができる.
本論文は発表後,注目すべき論文として多数の引用回数を記録している.その理由は, これ以後の LES モデルの研究には,本論文の結果を看過することができないからであると思われる.これらの事実より,本論文を 2002 年度流体力学会論文賞にふさわしいものと評価された.