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受賞論文および選考理由(2000年度) 

掲載日:2001年7月1日

受賞者

南部健一(東北大学流体科学研究所),A. V. Bobylev(Karlstad 大学)

対象論文

A. V. Bobylev and K. Nanbu: Theory of collision algorithms for gases and plasmas based on the Boltzmann equation and the Landau-Fokker-Plank equation,Physical Review E, 61 4-B, 4576-4586 (2000).

選考理由

電子,イオン,分子の運動と衝突をシミュレートして気体やプラズマの構造を調べるいわゆる粒子モデル解析は,希薄気体,プロセスプラズマ,宇宙プラズマ,核融合プラズマなどの研究に広く用いられている.しかし荷電粒子に対しては,フォッカー・プランク方程式が 1937 年にランダウによって求められているものの,この方程式から粒子間衝突のアルゴリズムを導出する方法は,これまで発見されていなかった.プラズマが高密度化しクーロン衝突が重要になるにつれ,支配方程式に基づく正しいクーロン衝突の取り扱いは,必要不可欠なものとなってきた.

本論文は,ランダウがプラズマに対するフォッカー・プランク方程式を導出した道筋をさかのぼり,ボルツマン方程式から出発してフォッカー・プランク方程式に対する衝突アルゴリズムを初めて導いた画期的な研究である.本研究始動の鍵となったのは,1997 年に Phys. Rev. E に発表された南部の 2 編の論文である.その論文では,プラズマ中で支配的な小角度散乱の累積が,等価な大角度散乱で表現された.この散乱角の確率密度関数は衝突の確率過程論的考察から得られたものであるが,フォッカー・プランク方程式の解法になっているという証明がなかった.本論文はこの証明を行うとともに,多成分プラズマ中で起こる荷電粒子間の衝突アルゴリズムを厳密に導いている.手順は次のようである.まず,ボルツマン方程式を用いて,速度分布関数の時間発展を表わす式を衝突核(グリーン関数)を用いて時間に陽に表現する.この衝突核は微分衝突断面積の汎関数になっている.ついで,小角度散乱を支配的と見なして衝突核を近似する.このとき時間発展式はフォッカー・プランク方程式の時間発展式に一致し,また衝突核は大角度散乱の散乱角の確率密度関数となる.この確率密度関数が系の経過時間に依存するというクーロン衝突に固有の性質は,本論文によって初めて厳密に証明された.