第18回 FDR 賞(2025年 受賞)は,以下の論文に授与することが決定しましたので,お知らせします.
論文題目:Statistical equilibria of two-dimensional turbulent flows for generic initial vorticity fields on a sphere, calculated on the basis of the original Miller–Robert–Sommeria theory
著者:Koki Ryono and Keiichi Ishioka
掲載年・巻・号・論文番号:2024年, 第56巻, 6号, 065509
惑星大気に代表される薄い流体層中の乱流では,木星大赤斑のように大規模な秩序渦が長時間に亘って出現することがある.また,流体層の厚さを無視して理想化した2次元の(減衰)乱流でも,時間経過とともに大規模な秩序渦が成長することが観測されている.このような2次元(的な)乱流中の秩序構造の生成を理論的に記述することは,流体力学における重要課題のひとつと言える.
観測される秩序構造を,種々の初期状態から時間発展を経た2次元非圧縮Euler流の最終状態と捉えると,流れに成り立つ保存則の存在から,この問題への平衡統計力学の適用が期待される.Onsager (1949)は,Hamilton系としての点渦系を対象に,相空間における等エネルギー面でエルゴード性を仮定し,ミクロ・カノニカル分布で与えられる平衡状態を考察した.その結果,相空間での高エネルギー有界領域において負の絶対温度状態が発生し,その状態では同一符号の点渦が集団化することを示した.だが,点渦系には熱力学的極限の取り方によって,負の温度が現れない等の課題がある.
Miller (1990),Robert (1990),Robert & Sommeria (1991)は,点渦系を経ることなく,直接2次元非圧縮Euler方程式に基づいて平衡状態を記述する統計力学理論(以下,MRS理論)を独立に提案した.彼らの理論では,各点における微視的渦度に対する分布関数から期待値として巨視的渦度場が得られ,分布関数は規格化条件と保存則の制約下でBoltzmann混合エントロピーを汎関数とする変分問題により決定される.
著者らは,先行論文(Ryono & Ishioka 2022)において,回転球面上の2次元非圧縮Euler流に対し,MRS理論に基づき初期渦度場から混合エントロピーを最大化する独自の精緻な数値解法を提案し,順圧不安定な初期場に関して,統計力学的平衡状態(エントロピーを最大化する分布関数から得られる巨視的状態)と乱流の時間発展最終状態との間に良い一致が見られることを示した.受賞論文では,非帯状の初期渦度場にも適用可能な数値計算法を新たに考案し,ランダムに与えた初期場から混合エントロピーの最大値をもたらす平衡状態を陽に求めることに成功した.非回転球面上の乱流の最終状態に現れる4重極渦構造を統計力学的平衡状態によって再現し,また球の回転角速度の増加に伴い,平衡状態の形態が4重極状から帯状へと遷移することを明らかにした.
本受賞論文は困難な数値解析を実行し,2次元乱流への平衡統計力学的アプローチの有効性と課題を明示するものであり,FDR編集委員会は本論文を第18回FDR賞に選出した.
FDR編集委員長 河原源太