第17回 FDR 賞(2024年 受賞)は,以下の論文に授与することが決定しましたので,お知らせします.
論文題目:An analytic solution of Navier–Stokes flow past a sphere in the region of intermediate Reynolds number
著者:Yuki Yagi, Kazuki Yabushita and Hiroyoshi Suzukip
掲載年・巻・号・論文番号:2023年, 第55巻, 4号, 045508
流れの中の物体に作用する流体力の理論的予測は,流体力学における最重要課題の一つである.特に,最も単純な形状の(対称性の高い)球を過ぎる一様流がもたらす流体力に関しては,これまで長きにわたり理論的な挑戦がなされてきた.周知のように,Stokes (1851)はこの問題に最初に取り組み,Navier–Stokes方程式の慣性項を無視し,低Reynolds数極限で抵抗係数CD=24Re-1を得た.ここに,Reは球の直径に基づくReynolds数である.Whitehead (1889)は,低Reynolds数に対してReに関するべき級数解を仮定し,Stokesの解への摂動として非線形性による補正を試みた.しかし,彼が得た補正は,無限遠での境界条件(一様流)との矛盾をきたす.この矛盾は,Reが小さくても球の遠方では慣性項が粘性項に比べ卓越することに起因し,Whiteheadの逆説とよばれる.この困難は,Oseen (1910)によるNavier–Stokes方程式の線形化方程式(Oseen近似)に対するReのべき級数解により回避され,抗力係数の補正CD=24Re-1[1+(3/16)Re]が得られた.ただし,Navier–Stokes方程式と整合する高次の補正はOseen近似からは得られず,Navier–Stokes方程式に基づく解析に依らねばならない.Liao (2002)は,Whiteheadが試みた全領域でのNavier–Stokes方程式の解の構成を実現するため,球中心からの距離rを左から乗じたStokes作用素とパラメターℏを乗じたNavier–Stokes作用素とのホモトピーとして問題を定式化した.彼は,ホモトピーパラメターq(q=0でStokes近似,q=1でNavier–Stokes方程式)のべき級数として解を表すことにより,Whiteheadの逆説を回避した.彼の処方では,q=1に対してℏを調節することで,従来より広範囲のReynolds数で抵抗係数の実験値と良く一致する解析解が得られている.
上記の受賞論文では,Liao (2002)よりも簡明といえる処方によってWhiteheadの逆説を回避し,全領域でNavier–Stokes方程式に対するReのべき級数解が構成されている.この処方では,べき級数解の各べきの係数関数が満足すべき方程式(論文の式(25))の慣性項に,調節可能なパラメターhを含み,ある極限で1となる因子を乗じる(式(51),(57),(58)参照).これにより,遠方で慣性項と粘性項の各主要項に関する1/rの次数を一致させ,Whiteheadの逆説が回避される.この処方で得られた解は,Reynolds数とパラメターの積Rehのべき級数として表せる.ゆえに,hを調節することで(式(74),(81)参照),広いReynolds数範囲Re ≲ 30において抵抗係数の実験値,数値解と良い一致を示す解析解が得られる.この解の流れ関数は,Re = 100程度までの実験や数値解に見られる定常な流れの剥離の様相を定性的に再現する.
本受賞論文は明快な処方によってこれまでの解析解の適用範囲を顕著に広げるものであり,FDR編集委員会は本論文を第17回FDR賞に選出した.
FDR編集委員長 河原源太