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第16回 FDR賞(2023年受賞)受賞論文決定 

掲載日:2023年9月4日

第16回 FDR 賞(2023年 受賞)は,以下の論文に授与することが決定しましたので,お知らせします.

論文題目:The Okubo-Weiss criterion in hydrodynamic flows: geometric aspects and further extension

著者:B K Shivamoggi, G J F van Heijst and L P J Kamp

掲載年・巻・号・論文番号:2022年, 第54巻, 1号, 015505

乱流中に現れる複雑多様な構造を,恣意性を排除して客観的に捉えることは,乱流現象の理解への重要な一歩である.特に,圧力の非局所性による影響が相対的に(変形速度に比べ)弱く,局所にその動力学の本質を論じ得る渦構造に対しては,これまで様々な同定規範が提案されている.それらの中の代表的なものは,速度勾配テンソルの不変量に基づく運動学的な規範であり,正の第2不変量(回転運動が変形運動に優越することを意味する)を有する領域として非圧縮乱流の渦構造を抽出するHunt, Wray & Moin (1988)の同定法が広く知られている.2次元流に対しては,Huntらの研究のずっと以前に同様の規範がOkubo (1970)とWeiss (1981)によって独立に提案されている.この規範は現在Okubo-Weiss規範とよばれ,2次元乱流中の渦構造の同定によく適用されている.

上記の受賞論文では,このOkubo-Weiss規範に関して興味深い理論的考察が加えられている.Okubo-Weiss規範は(2次元)速度勾配テンソルの固有値の自乗Q(Okubo-Weissパラメターとよばれ,正のQは負の第2不変量に相当する)で表され,Okubo-WeissパラメターQが負ならば回転運動が優勢(流線は楕円的),正ならば変形運動が優勢(流線は双曲的)となる.2次元非圧縮Euler流においては,速度勾配テンソルと,渦度の回転で定義されるdivorticityベクトル(渦度の等値線の接線方向に向く)との積は,divorticityベクトルのLagrange微分に等しい(つまりdivorticityベクトルは流体に凍結される).この論文では,divorticityベクトルが速度ベクトルと平行になる(ある種のBeltrami)条件下でQと渦度分布のGauss曲率との関係を明らかにし,変形運動が優勢となりQが正になる点では渦度分布のGauss曲率は負になり,渦度場が鞍点をもつことを示した.これは,Beltrami条件下での2次元の流れ場の特性を渦度場のGauss曲率と直接的に関連付ける興味深い結果と言える.また,著者らは平面極座標でのOkubo-Weissパラメターの表現を与え,それに基づき,Lamb-Oseen渦や3次元軸対称流であるBurgers渦に伴う流れ場が,渦近傍では楕円的,渦遠方では双曲的であると判定した.

さらには,Okubo-Weiss規範を準地衡流に拡張し,ポテンシャルdivorticityと速度ベクトルとのBeltrami条件下でCoriolisパラメターにβ 平面近似を仮定すると,上記の正のOkubo-Weissパラメターと渦度分布の負のGauss曲率との関係が保持されることを示した.拡張されたOkubo-Weiss規範は準地衡流乱流に適用され,流れ場を渦領域と双曲的領域に分解できることが確認された.

以上のOkubo-Weiss規範に関する議論は,乱流場の構造の理論的な理解を深化させるとともに,Okubo-Weiss規範の適用範囲を準地衡流乱流へ広げるものであり,FDR編集委員会は本論文を第16回FDR賞に選出した.

FDR編集委員長 河原源太