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第13回 FDR賞(2020年受賞)受賞論文決定 

掲載日:2020年8月1日

第13回 FDR 賞(2020年 受賞)は,以下の論文に授与することが決定しましたので,お知らせします.

論文題目:Dependence of instability to induce a bathtub vortex in a rectangular vessel on the aspect ratio of the horizontal cross section

著者:Jiro Mizushima, Rei Matsuda and Naoto Yokoyama

掲載年・巻・号・論文番号:2019 年,第 51 巻,2 号,025505

 バスタブ渦の形成は,通常,排水口からの吸い込みによって円柱状の回転流領域の半径が縮むと,局所的な角運動量を保存するために,流体要素の角速度が増大する,という説明がなさる.大気や海洋の大規模渦は,北半球では左巻き,南半球では右巻きである.室内実験の渦で,微弱なコリオリ力効果を検証しようとする試みもある.本論文は,流体力学的不安定性によってバスタブ渦が形成されるシナリオを追求し,線形安定性の精緻な数値解析によってこの目的を見事に達成した.
 長方形の水平断面をもつ直方体容器を水で満たし,底面中央部の正方形の排水口から下方に延びる正方形断面の筒を通じて排出する.同時に,直方体の短辺側側面上部のスリットから水を注入することによって,定常状態を実現する.上面はふたをして自由表面はない.長方形断面のたて・よこ両中心線について反転対称な(DPS:double-plane symmetry)流れを定常解としてもつ.この基本流に加えられた初期微小攪乱の時間発展を線形化Navier-Stokes 方程式を数値的に解くことによって,最も不安定な(安定な場合は,不安定に近い) モードの増幅率を数値的に計算し,解を収束させることによって定常分岐解を構成した.長さと速度は,正方形排出口の辺の長さと単位時間当たりの排出体積によって無次元化する.安定性の,長辺a と短辺b のアスペクト比 A = a/b (> 1) に対する依存性を詳しく調べた.
 断面が正方形に近い場合,1 ≤ A < 5.86/3 ≈ 1.95 のとき,DPS 流は線形安定である.A が1.95 を超えると,Rec1< Re < Rec2 の範囲で,DPS 流が不安定になり,pitchfork 分岐を起こして,π 回転対称性をもつ定常解(RS 流) が出現する.Rec1 の 依存性は弱く,60 前後の値をとるが,Rec2 は A とともに増大する.RS 流出現の起源を全領域での角運動量収支に求めた.数値解を分析した結果,長辺側の両側面上での圧力によるトルクが効いて分岐が起きることを明らかにした.
 また,Navier-Stokes 方程式の数値シミュレーションを実行して,線形解を検証し,非線形分岐解の探索を行った.Rec1 は線形解がよく近似するが,大きい側は様相を異にする.Re が増大すると,RS 解から空間対称性をもたない定常解(NSS 解) が分岐し,さらにRe を上げると,A > 8/3 のとき,Hopf 分岐を起こして時間周期解が出現するが,A < 7/3 のときは,DPS 解にもどる.
 馴染みの深い現象に対して,巧みな問題設定と,高度な数値計算技術によって,常識からは想像し難い結果を導いた貢献によって,FDR 編集委員会は,本論文を第13 回FDR 賞にふさわしい論文であると決定した.

FDR編集委員長 福本康秀