第12回 FDR 賞(2019年 受賞)は,以下の論文に授与することが決定しましたので,お知らせします.
論文題目:Effect of butterfly-scale-inspired surface patterning
on the leading edge vortex growth
著者:Jacob Wilroy, Redha A Wahidi and Amy Lang
掲載年・巻・号・論文番号:2018 年,第 50 巻,4 号,045505
昆虫の飛翔では,羽ばたく羽根(翼)の前縁からの剥離渦(Leading Edge Vortex-LEVと略する)が揚力を作り出す主要メカニズムである.スズメガの揚力の2/3 が LEV によって生み出される(Van Den Berg and Elligton 1997).比較的長い時間翼に付着する安定な LEV が大きな揚力を生む.この安定性機構が問題である.LEV が誘導する流れがもたらす逆勾配圧力によって境界層が剥離し,逆向き渦度をもつ2次渦が LEV と翼の間に形成される.この2次渦が LEV の成長を抑えて長時間前縁付近に留まることを可能するという通説がある.本論文は,数千程度のレイノルズ数領域において,表面粗さの異なる2種類の平板翼を過ぎる2次元流の実験を行って,この説を明快に打ち消す結果を得た.
たて・よこ 36 × 24インチ,高さ 60インチの水槽を静止した水で満たす.上面は自由表面である.水槽の向かい合う側壁を差し渡すように配置した平板翼を,迎え角45°で,ある瞬間から急に一定速度で引っ張り上げる.一つは,滑らかな表面をもつ平板で,翼弦 7インチ,翼長 34インチ,厚さ 0.75インチである.両翼端に柔軟な断熱材を貼り付けて,翼端と水槽の壁の間の隙間をふさいで,2次元流を実現した.これと比較するのが,表面にたて溝列をもつ平板翼で,上述の平板を基板として,厚さ 0.25 インチのたて溝をもつ薄い板を貼り付ける.たて溝は,断面が一辺 0.2mm の正方形で,これを 0.1mm の間隔をあけて周期的に並べる.翼の前縁・後縁はまるめて不要な流れの剥離を避けた.翼の引き上げ速度として,8, 16, 32 mm/s の3通りを試した.翼弦レイノルズ数 Rec に換算すると,それぞれ,1416, 2833, 5667 である.流れ場は PIV で測定した.
前縁から剥離する剪断層(LE 剪断層)が,2次渦との相互作用によって不安定化すると,LEV への渦の供給を開始する.LEV に渦が一定量たまるとピンチオフを起こして,平板から離れる.たて溝があると,よりコンパクトで強い2次渦が形成され,しかも表面近くにへばりついている.LE 剪断層の不安定化は, Rec が高い方が,そして,溝付き翼の方が早い.溝付き翼の強い2次渦は,LE 剪断層と強く相互作用して,LE 剪断層から LEV への渦度の供給を促進して LEV の剥離を早める.これは冒頭の通説とは真逆の結果である.
工夫を凝らした実験によって翼を過ぎる2次元流を実現し,流れ場の精密測定と可視化によって,前縁からの渦の剥離への表面粗さの効果に関する懸案の問題を解決した.広く関心を集めるテーマへの大きな貢献によって,FDR 編集委員会は,本論文を 第12回 FDR 賞にふさわしい論文であると決定した.
FDR編集委員長 福本康秀