第10回FDR賞(2017年受賞)は,以下の論文に授与することが決定しましたので,お知らせします.
論文題目:The coupling between inner and outer scales in a zero pressure boundary layer evaluated using a Hölder exponent framework
著者:Christopher J. Keylock, Barath Ganapathisubramani, Jason Monty, Nick Hutchins and Ivan Marusic
掲載年・巻・号・論文番号:2016年,第48巻,2号,021405
乱流の速度ゆらぎのモーメント(構造関数) に関するコルモゴロフのスケーリング則に対するランダウの批判は,間欠的挙動を取り入れるため,スケーリング則の修正を促した. スーパーコンピュータの登場や理論的手法と実験技術の発展により,1980 年代から,間欠性の理解が急速に深まった.乱流の間欠性を表現する概念としてマルチフラクタルが提唱され,それを特徴づけるヘルダー指数が導入された.構造関数に対するコルモゴロフの 2/3 乗則に対しては,各点ヘルダー指数 αu の平均値は 1/3 であり,マルチフラクタル性は αu の特異スペクトルによって記述される.
本論文では,著者たちは,メルボルン大学で行われた高レイノルズ数のゼロ圧力勾境界層乱流の風洞実験データから,大・小スケールの流れ場間の結合を調べるためにヘルダー指数の活用を試みて,成功している.境界層厚さ δ より小さなスケールの間欠性を,ローパスフィルター処理された指数 αδ< によって表し,大きなスケールの縦速度揺らぎ υδ> との結合に焦点を当てている.結合の強さを表す4つの尺度(メトリック) を導入した.i) 線形相関 R(υδ> , αδ<), ii) υδ> と αδ< の平均値まわりの揺らぎ変数の位相 ϕu> , ϕα< の間の線形相関 R(ϕu> , ϕα< ), iii) 位相差 Δϕu,α = ϕu> − ϕα< の単位円周上での分布,そして,iv) Δϕu,α の分布の相対エントロピーである.これら4つ尺度によって,大・小スケール間の結合の壁からの距離 y+ への依存性が顕わになり,さらには,uδ> と αδ< の符号で隔てられる4個の象限への依存性が明らかにされた.結合の仕方は y+ ~ 1000 を境に大きく変わる.小スケール構造は,y+ < 1000 では大きなスケールの速度の極大値と,y+ > 1000 では極小値と関係している.象限分析によると,壁付近で負相関が,外側では正相関がある.
離散化された変数の2点統計量と異なり,ヘルダー指数 αδ< は小さなスケールの変調の連続性の尺度(ヘルダー条件) を与える利点があり,大きなスケールの速度揺らぎと小スケールの間欠性の関連性の y+ 依存性を,符号込みで調べることを可能にする.長年にわたって懸案となっている重要課題に切り込める実効性のある斬新なアプローチを導入した貢献によって,FDR 編集委員会は,本論文を第10 回 FDR 賞にふさわしい論文であると決定した.
FDR編集委員長 福本康秀