髙木正平(合同会社Pantec),稲澤歩(東京都立大学),淺井雅人(東京都立大学)
低雑音化を実現したプローブ・ブリッジ回路一体型コンパクト熱線風速計
熱線風速計は流体力学実験の重要ツールとして長い歴史をもち,PIVなどのレーザー計測が普及した現在であっても,特に,高周波数応答かつ高精度が要求される乱れ計測においては必須のツールである.とりわけ高レイノルズ数乱流の実験研究の高度化においては,高空間分解能を持ち,高周波数応答と高S/N比性能を両立する熱線風速計の開発が必要であった.そこで,候補者は,風速計回路が熱線プローブのサポート内部に収納できる超小型化に挑戦し,プローブと風速計との接続ケーブルが不要でかつ,気流を乱さないほど小さい,「コンパクト定温度型熱線風速計」を開発した.同時に,風速計の消費電力を0.5W以下にまで低減することで,実用計測において乾電池,蓄電池の使用を可能にし,従来の風速計では類を見ない低雑音化を達成した.まとめると,開発した熱線風速計システムは,従来品と比較して以下の優れた性能・特徴を持っている.
1)熱線風速計回路がプローブ内に実装され,周囲電磁波の影響がほぼ完全に遮蔽可能である.その結果,市販の最高性能風速計システム以上の低雑音化を実現した.
2)熱線センサと風速計回路が隣接するので,接続ケーブルの影響が無視できるほど小さい.これにより,熱線風速計の応答特性が理論モデルで表現でき,風速計固有ノイズの影響を排除することが可能となった.
このように,本技術は熱線風速計の出力電気信号から真の流速変動を抽出することが可能であるため,特に,高レイノルズ数乱流の実験的研究に大いに寄与することが期待される.
本技術の他社製品に比べた優位性は,流体計測機器で大きなシェアを持つ他社製品と比較して,Pantecコンパクト定温度型熱線風速計は超小型にもかかわらず,高周波数域での低雑音化に成功している点が評価できる.同価格帯のモデルと比べ,より高精度化,低ノイズ化,コンパクト化に成功し,振動に対する堅牢性も合わせ,非常に精緻な計測が可能である.廉価である本技術の熱線風速計の精度とコンパクトさの優位性は際立っている.また,成熟した技術分野と思われていた熱線風速計の領域に革新をもたらしたことは意義深いと評価できる.Pantec社の企業規模から製作は手作りが中心であり,大量生産の体制ができていないが,起業後1年半の間に大学,民間に対して計20台の販売実績があり,技術の実用化は,十分に達成できており,今後のさらなる展開に期待が持てる.
以上により,本技術は技術賞に十分値すると評価できるため,受賞候補に推薦する.