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受賞技術および選考理由(1)(2018年度) 

掲載日:2019年5月1日

受賞者

前田和宏,槇原孝文,只熊憲治,寺門晋,山下太郎,坪井謙太郎(トヨタ自動車㈱),小松由尚 (三菱重工業㈱),太田真弘,伊与田真志(三菱重工機械システム㈱)

対象技術

実走行条件での定量評価を可能とした流速変動制御による風洞実験技術の開発

選考理由

自動車の開発において,走行性能の向上を図る上で空力特性は極めて重要な要素である.従来,自動車の空力特性解析は定常な流れを用いた風洞実験により行われてきた.しかし,実走行時における空気の流れは時々刻々変動しており,この流れ場中での空力特性を理解し,予測し,制御することが重要である.前田氏らは,実環境下において計測された風変動データをもとに,自然風と同等の変動風を発生させる装置を開発するとともに,自動車の風切音静粛性による快適性,走行安定性を今までにない観点から開発,自動車に流体力学からの新たな技術を付加し製品に適用した.自然風発生装置(NWG, Natural Wind Generator)は,風洞ノズル部に風速・風向を変動させるダンパーと翼列を設置し,これらを制御して自然風を再現するものであり,乱流研究で用いられるアクティブグリッドの発展形である.翼・ダンパー形状,共鳴音防止のための音響透過翼の開発だけでなく,測定室内の流れ応答性を確保する風洞伴流システム・音響透過絨毛コレクター,風速変動を許容する送風能力など風洞全体の設計の随所に多くの流体力学的知見と技術が用いられ,世界に類を見ない実機サイズの自然風風洞となっている.また,これを駆使した変動風による空力音変動評価を行い,風切音静粛性による快適性を製品として実現している.さらには,変動風に対する空気力の動的応答や車両運動と空気力応答の連成共振の評価が可能となるなど,自動車の空力特性解析において新局面を開拓している.

風洞で自然風の時系列を直接再現するアイディアと技術は,単に自動車の空力特性改良にとどまらず,環境,気象,土木,建築など流体力学の幅広い分野にも応用でき,将来の発展が期待できる.以上の観点から,本技術は技術賞としてふさわしいと評価する.