橋本 博,佐藤 稔(TOTO(株)総合研究所 商品研究部)
小薗由寛(安川電機(株)インバータ事業部,インバータ開発課)
上村彰博,川田賢志(TOTO(株)ウォシュレット生産本部ウォシュレット開発第二部)
音羽勇哉(TOTO(株)総合研究所 商品研究部)
バルーン状大気泡を用いた間欠吐水技術の開発と省エネ温水洗浄便座の普及
温水洗浄便座には,温水を常時貯めておく「貯湯式」と,使用時のみ瞬間的に昇温する「瞬間式」がある.後者は,待機電力が不要なため省エネであるが,湯沸しの瞬間電力の上限のため,節水が必要である.「瞬間式」を可能とする節水のためには,時間的に一定流量の噴流を用いる代わりに「水玉吐水(脈動)」にする方法が最も有効であることが知られてきた.これは,人間が肌で感じるよりも高振動数で洗浄水を脈動させれば,十分な流量であると人間が感じながらも,洗浄力を維持したまま節水できる,という方法である.この「水玉吐水」を実現するためには,従来,ソレノイド式脈動ポンプ(電磁ポンプ)が用いられてきた.しかし,このポンプは,高価である上に電力も必要とする.そこで,受賞者のグループでは,電力を用いない「流体素子を用いた間欠吐水技術」を開発し,2012年に製品化に成功した.
本技術の根幹は,噴流が「水(湯)の中に噴射する状態=減速」と「空気の中に噴射する状態=速いまま」を交互に作ることにより,流速を周期的に時間変化させる流体素子にある.この流体素子においては,流入する噴流の通過経路に空気取り込み口と水取り込み口を持った小部屋が設けられている.上部の空気取り込み口から吸い込まれた空気が大きな気泡に成長すると,小部屋に流入する噴流は気泡中を通過し,空気を取り込みながら高速で射出される.しかし,その後,小部屋の空気が少なくなると,流入した噴流は水中を通過するため射出速度は小さくなる.上記の過程が人間の感覚では感知できない高振動数(80Hz程度)で周期的に繰り返され,噴流の射出速度は周期的に変化する.高速で射出された流体は,それより前の時刻に射出された低速の流体に追いつき,大きな水玉を形成する.このようにして,水玉吐水(脈動)が実現されることになる.
今回開発された流体素子は,流体力学の応用技術として非常にユニークである.とくに,気液固体が干渉する複雑系において,流体(水と空気)に備わった性質や固体壁での濡れの性質を巧妙に利用して単純な構造で流れを制御し,周期性を発現させた点で画期的である.また,耐久性が重要となる温水便座製品に成果を応用できたことは,流体力学への興味・関心を喚起するものであり,流体力学への貢献度も大きい.なお,本技術は,他社技術との比較においても,使用水量が少ないなどの点で優れている.また,類似の技術は,シャワーなど他の水回り製品へもすでに応用されている.今後,海外への普及も期待され,将来性も非常に高いと考えられる.上記の理由により,本技術を日本流体力学会技術賞にふさわしいと判定した.