高田一貴(神鋼パンテック(株)・環境装置事業部),岡本幸道(同左・化工機事業部),菊地雅彦(同左・化工機事業部),伊藤久義(同左・環境装置事業部)
本技術は,化学プラントの中でも反応機や混合機として用いられる撹拌装置の性能を飛躍的に向上させた低中粘度用撹拌翼(フルゾーン翼)及び高粘度用撹拌翼(ログボーン)の 2 機種の開発に関するものである.開発に当っては,流体力学とくに数値流体力 学による知見と手法に基づく解析から,高効率かつ均一に混ぜるための最適な槽内流動形態を明らかにすることができた.これは実験では解明できない細かい情報を解析結果から得ることができたためである.その結果,本技術を有する攪拌翼では,従来型の撹拌翼に比べて混合時間は 1/2 以下,撹拌動力も 1/3 以下という高性能を達成することに成功した.同時に,従来型攪拌装置で問題とされていた撹拌槽内のデッドスペースの解消も達成し,適用範囲を広げることも可能となった.
応用先は化学プロセスにとどまらず,例えばビールの酵母発酵槽用の撹拌翼としては,ビンガム流動の数値解析を活用して設計した結果,酵母の死細胞率を増すことなく濃度と温度の一様性が達成でき,撹拌動力を従来翼の 1/4 以下にすることに成功している.
このように,本製品の開発過程では流体力学をベースにした知見と手法によって性能を飛躍的に向上させることができた.製品自体の売れ行きも順調なヒット商品にまで成長し,化学工学はもとより,食品,医薬,印刷および塗装など各産業界での貢献に多大なものがある.これらの点から,日本流体力学会の技術賞に値するものと評価された.