Plane-layer Rayleigh–Bénard convection up to Ra = 1011: near-wall fluctuations and role of initial conditions
Roshan J Samuel and Jörg Schumacher
2025年, 第57巻, 6号, 061401
重力作用下で浮力により駆動される熱対流は自然界において広範に見られ,その理解は海洋学,気象学,地球物理学,宇宙物理学上の重要課題と位置付けられる.鉛直下方から加熱,上方から冷却された水平平板間の流体層に生じるRayleigh–Bénard対流は,種々の熱対流を代表する対流場である.Rayleigh–Bénard対流における乱流状態は,周期箱乱流((近似的)一様等方乱流),チャネル乱流(壁乱流)等とともに,最も基本的な乱流場の1つとして,長年に亘り多くの研究者の関心を集めてきた.
Rayleigh–Bénard対流の発達した乱流状態では,Nusselt数(無次元熱流束)NuがRayleigh数Raのべき乗則Nu ~ Ra1/3によって表されることが知られている.このべき則は容器(周期箱)のアスペクト比や流体のPrandtl数に依らず普遍的に観測され,古典スケーリングと呼ばれる.極めて高いRayleigh数では,平板上の境界層が乱流に遷移し,Nusselt数のRayleigh数への依存性が古典スケーリングから逸脱することが予想されており(Kraichnan 1962),これまで60年以上この逸脱の有無が議論されてきた.最近,Ra ≳ 1011での境界層の亜臨界乱流遷移とそれに伴う古典スケーリングからの逸脱を示唆する結果が報告された(Roche 2020; Lohse & Shishkina 2024).
本受賞論文では,この逸脱に関わる境界層の乱流遷移に着目し,Prandtl数Pr = 0.7,アスペクト比4の水平平板間周期箱におけるRayleigh–Bénard対流乱流に対して直接数値シミュレーションを実行し,逸脱が示唆された上記Rayleigh数に近いRa = 1011までの境界層の振舞いが詳細に検討された.まず,熱伝導が顕著な壁近傍の流れを,鉛直方向流動(プリューム)が支配的な領域と水平方向流動(剪断流)が支配的な領域とに分け,各領域における統計量が議論され,2つの領域の各面積占有率の比は概ねRayleigh数に依らず一定であることが示された.また,熱対流乱流状態に水平方向流を初期条件さらには定常外力として印加し,乱流境界層(対数速度・温度分布)が現れるか調べたところ,大振幅の初期条件や定常外力によって対数分布は現れるものの,分布のプリファクターや切片は乱流境界層の標準値より著しく小さいことが明らかとなった.さらには,水平方向流を印加した場合のNusselt数には,水平方向流を印加しない熱対流乱流状態での値との差異が認められないことが示された.以上の結果は,少なくともRa ≤ 109におけるRayleigh–Bénard対流では境界層の乱流遷移とそれに伴う古典スケーリングからの逸脱が生じないことを示唆する.
本受賞論文は大規模かつ詳細な数値解析を遂行し,現在注目を集めているRayleigh–Bénard対流の水平平板上境界層の性質を明らかにするものであり,FDR編集委員会は本論文を第19回FDR賞に選出した.
FDR編集委員長 河原源太