Area waves on a slender vortex revisited
Stephen Childress and Andrew D Gilbert
2021年, 第53巻, 3号, 035508
渦管の断面の膨張・収縮は渦崩壊等には本質的であるが,細長い渦管の運動の理論的扱いでは,たいてい,断面は渦管に沿って一様であると仮定する.30年ほど前,非圧縮非粘性流体中の渦管断面の軸対称面積波 (area waves) に対して,発見的な方法による2つの理論が提示された.Lundgren & Ashurst (1989) は,一様軸流 (slug flow) を仮定して,オイラー方程式の軸 (z) 成分の空間平均から軸流速度 W(z,t) の発展方程式を導出した.これを`運動量波モデル (momentum wave model)¢ と呼ぶ.Leonard (1994) は,周方渦度方程式の空間平均から,W(z, t) と断面積 A(z, t) の比 W/A に対する発展方程式 (`渦波モデル (vorticity wave model)¢) を導出した.この2つは見かけはほとんど同じであるが,分散関係が異なる.運動量波モデルでは,面積波の軸流に相対的な伝搬速度は上流と下流で同じであるが,渦波モデルでは下流の方が速い.本論文は,微分幾何学的手法によって渦核の軸対称断面変形の発展方程式系を導出し,数値計算による比較を行って,渦波モデルに軍配を上げた.
道具立てはオイラー・ラグランジュ・ハイブリッド法で,一般化ラグランジュ平均 (GLM) 理論のために編み出され,著者自身も微分幾何学的手法の開発を行った.物理系 (~x) と参照系 (x) を用意する.参照系では円柱渦管で,渦度と速度は z 成分のみを許す.時間に依存する写像~x =f(x, t) によって物理系での渦管の軸対称変形を表す.変形速度場 ~U = ¶t f ° f-1がラグランジュ的に扱われ,~U で動く (非直交) 座標系での軸対称オイラー方程式を厳密に導く.続いて,基本場として一様渦度を仮定し,`細長極限¢をとると,周方向渦度と渦管境界面の発展方程式を連立した `完全細長渦系 (full slender vortex system)¢に帰着する.断面の膨張・収縮が一様,軸流の基本場成分が一様であると仮定すると,渦波モデルが導かれる.運動量波モデルは,軸流全体が一様であると仮定し,オイラー方程式のz成分の断面平均から導かれる.3種類のモデルの数値計算を行って,渦波モデルの正当性を結論した.
この方法は拡張性に富む.一般的な歪み流中での渦管の軸対称変形の時間発展を記述する発展方程式を導出し,局所的な渦管の伸びが促進される場合と逆に面積波が断面積の一様性を回復する場合があることを論じた.これはLerayのスケーリングにおいて,軸流の役割が無視できないことを示唆する.
微分幾何学的手法と深い洞察力によって,渦管の軸対称変形に関する理論の基礎を整備して30年来の懸案を解決し,外場中の渦管の非一様な伸び・縮みを計算する一般的な方法を開発した.流体力学の狭路を切り拓いた業績によって,FDR編集委員会は,本論文を第15回FDR賞にふさわしい論文であると決定した.
FDR編集委員長 福本康秀