Interaction between thermal convection and mean flow in a rotating system with a tilted axis
Naoaki Saito and Keiichi Ishioka
齊藤 直彬(気象庁),石岡 圭一(京都大学)
2011年,第43巻,6号,065503
本論文では,傾いた回転軸をもつ回転系における,水平シア流と熱対流運動の相互作用について調べている.すなわち,回転軸が鉛直方向から傾いた回転系において,温度の異なる上下の水平境界の間の流体が水平方向(東西方向)にsin型の速度分布で流れている,という基本状態から発生する熱対流運動を,(緯度によって決まる)回転軸の傾き角,回転の強さを特徴づけるテイラー数Ta,上下の境界面の温度差を特徴づけるレイリー数Raのさまざまな値に対して調べている.
具体的には,フーリエ級数展開とルジャンドル多項式展開を用いたスペクトル法による数値計算を行い,傾き角とTaの多くの値に対して,熱対流の発生する臨界レイリー数Racを求めたあと,Racよりも大きいRaにおける熱対流運動の長時間での時間発展を調べている.その結果,平均流の加速を伴わない層流あるいは乱流の熱対流運動が見られるパラメータ領域のほかに,東西方向波数が0でないherringbone型のロール状対流の発生に伴って東西方向の平均流が加速される現象が見られるパラメータ領域や,東西方向に一様で南北方向に大きいスケールをもつ2次元ロール対流の発生に伴う平均流の加速が見られるパラメータ領域が見出されている.そして,長時間での時間発展の数値計算や線形安定性解析によって,定常な2次元ロール対流の解が安定に存在するパラメータ領域が求められているほか,この解が不安定である場合には,定常解のまわりで振動する準周期的な解が得られることが示されている.また,大スケールの2次元ロール対流が平均流を加速する機構についても,物理的な説明が行われており,この加速のためには回転軸の傾きとsin型の水平シア流の存在が重要であることを明らかにしている.
本論文において,広い範囲のパラメータ領域にわたって熱対流運動の振る舞いが詳細に調べられた点,および平均流の加速を伴う大スケールの2次元ロール対流が見られるパラメータ領域を見つけた点は高く評価される.また,大スケールの2次元ロール対流の強化と平均帯状流の加速に関する正のフィードバック機構を提案した点も,流体力学に対する興味深く大きな貢献であると言える.また,本論文は,水平シア流をもつ回転系での熱対流において働く基本的なメカニズムに関する新しい考え方を与えることによって,木星などの巨大惑星における強い水平シア流をもつ大気運動の研究にも貢献すると思われる.
以上の理由から,本論文は第5回FDR賞にふさわしいと判断される.