A. Constantin and R.S. Johnson
2008年,第40巻,3号,175~211頁
本論文では,津波が「分散項のない非線形方程式」で記述されること,およびその解が津波の特徴(小さな波が大きな波に先行する)を表すことを示しています.これまで津波の数理的解析に関する多くの論文ではソリトン理論を基礎にしていました.これに対して,本論文では実際のデータ(スマトラ沖地震など)から,底深さの変化や非線形性に比べて一般に分散性が重要ではないことを指摘し,長波長非線形波を記述する新しい方程式を提案しています.解析では波高と深さの二つのパラメターによる漸近展開を用いて,深水波領域と浅水波領域との解の接続により,十分浅い領域を除く領域で有効な漸近解を得ることに成功しています.このとき,背景の渦流れ考慮した場合としない場合に分けて調べ,より現実の流れに対応した解析が行われています.この結果,津波の特徴である小さい波が大きな波に先行することや津波の到達する前に潮が引く様子などを説明できることを述べています.このように本論文は,津波の説明において従来とは異なる視点で解析を行い,観測結果の特徴を説明する妥当な結果得ています.そして,解析手法の詳しい説明と津波現象の丁寧な解説で読者に津波の数理的解析に関する多くの知見を与えるものであると評価されました.