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事業仕分けにおける科学技術分野の評価について 

掲載日:2009年12月12日

社団法人 日本流体力学会
会長 宮内敏雄

 行政刷新会議の事業仕分けは、国民の目線から国の予算項目を見直し議論する機会をもたらした画期的で大変有意義な作業であったと思います。しかしながら文部科学省の「次世代スーパーコンピューティング技術の推進」、「科学研究費」の項目での大変厳しい評価結果には驚愕しています。これらの項目は日本流体力学会の会員も中・長期的な視点で取り組んでいる研究に直接かかわるものです。科学技術はその性格上、数年間の研究成果や見通しからだけでは判断できないものであり、経済的効率や短期的成果に重点をおいた事業仕分けとは本来相いれないものです。資源のない日本にとって科学技術は国際的競争のあらゆる場面において優位に立つための重要な手段です。もし、この評価に基づく予算縮減が実施されれば、日本の科学技術は極めて大きな打撃を受けるばかりか、日本の将来を危うくし国益を著しく損ねることになります。今回の評価はまったく不適切であると言わざるを得ません。

 日本の科学技術のシンボルともいうべきスーパーコンピュータは現代の科学技術全体において主要な研究手段となっており、その計算能力がその国の研究開発能力を大きく決定することは国際的な共通認識です。コンピュータはその誕生の瞬間から流体力学に応用されその進歩がさらに新たなコンピュータ開発を促すという相乗効果でともに進歩してきました。そして今や我が国のスーパーコンピュータは気象予報、地球環境予測など定量的な未来予測のための手段として大きな役割を担っていますし、航空宇宙機器開発や自動車などの製品開発などにも応用され大きな成果をあげています。計算速度のみならず通信能力やメモリを含めた世界最大の計算能力をもつスーパーコンピュータとソフトウエアを我が国が自前で開発製造し、それを駆使して科学技術上の新しい発見や難問の解明を世界に先駆けて行うことは、人類にとって大きな利益をもたらし、研究者のみならず多くの国民を勇気づけ、すぐれた人材を国内外から集める大きな原動力になります。さらには、先取権から生じる大きな経済的恩恵をももたらすでしょう。「次世代スーパーコンピューティング技術の推進」事業はぜひとも進められるべきです。

 また、上記項目だけでなく、大学では国立大学法人運営費交付金・私学助成が毎年1%削減されてきており、教育研究活動の基盤が崩れつつあります。同様に人材育成に極めて重要な「若手研究者養成」「女性研究者支援」事業等も非常に厳しい評価を受けています。もしこれらの人材に関わる事業が縮減されれば、日本の科学技術の将来は取り返しのつかない大きな影響を被ると考えます。新政権には是非とも、長期的展望に立った科学技術と教育研究への力強い支援をお願いする次第です。