このたび,山本誠前会長の後を受け,2022年度の会長を拝命いたしました大阪公立大学の須賀一彦です.(大阪府立大学と大阪市立大学が統合されて本年4月から大阪公立大学になりました.)1968年創立の流体力学懇談会をその起源に持ち,五十余年の歴史と伝統を誇る日本流体力学会の輝かしい来し方を知れば知るほど,その重責に身の引き締まる思いでおります.会員の皆様のお力添えをお願いし,本学会の発展のために,微力ながらかじ取り役に尽力する所存ですので,よろしくお願い申し上げます.
日本流体力学会の会員の専門分野は物理学,地球・宇宙物理学,気象学,機械工学,航空・宇宙工学,海洋工学,建築・土木工学,環境工学,化学工学,生体・医用工学など多岐に渡り,私自身も工学研究科機械系専攻に所属し,乱流モデルや乱流熱工学を専門としております.本学会は,このように流体力学を中心に据えた専門分野の横断的な学会と言え,この半世紀の間,我が国のみならず世界の流体力学の発展に大いに貢献してまいりました.このような「力学を基盤とするハブ学会」たる本学会の次の50年への発展の礎として,10年後の本学会のあるべき姿を検討するために,2019年度から活動していた若手有志によるワーキンググループの提言“ビジョン「Fluid Mechanics 2030」~力学を基盤とするハブ学会~”(以下,ビジョンFM2030)が昨年6月に理事会に答申されました.(ながれ40巻6号(2021)434-447頁)
これを受けて,理事会では具体的な提言の実施について本格的に検討を始めています.ビジョンFM2030では,本学会の国・企業・一般へのアウトリーチ強化,流体力学の普及,国際プレゼンス向上とハブ機能の強化,異分野融合と国際連携強化,博士進学と女性研究者の奨励が急務であるされています.そのために,本学会主催の講演会における,パブリックセッションの導入,国際シンポジウム化,英語セッションの導入,シングルセッションの導入,OS内への招待講演の導入,博士進学セミナーの開催,若手賞の設立等による講演会の活性化を提案しています.また,学会の活性化のためにホームページによる情報発信の強化,企業向け窓口と出張講義窓口の設置,若手ネットワークの構築,FDRの国際プレゼンスの向上,各学会賞のあり方の再考,学会活動・事業の精査と改善改革が必要とされています.
そこで2021年度では,比較的取り組み易い,講演会OS内への招待講演の実施,若手優秀講演表彰の創設,若手ネットワーク(cafe-ml@nagare.or.jp)の構築が即時施行されました.また,一般へのアウトリーチ強化や流体力学の普及に関連して,FM2030とは独立に2019年度から学会賞委員会内で議論されてきた「流体力学社会文化表彰」が2021年度に創設されています.そこでは,対象者は,本会会員に限らず,学会賞(論文賞,技術賞,等)の対象業績以外の活動で,流体力学の知見を,広く社会や文化に貢献することに顕著な業績があった個人または組織を表彰するとしています.
2022年度は,ビジョンFM2030に示された講演会や学会の活性化に向けた提言に本格的に取り組み始めることになります.理事会では高木周副会長に委員長をお願いし,FM2030実施委員会を新たに立ち上げ,その下に各ワーキンググループを組織し,実施具体案を練り上げ,「力学を基盤とするハブ学会」たる日本流体力学会の将来に向けた様々な改革を進めてまいります.一連の提言の中で,アウトリーチの活性化のために従来にない新たな仕組みとして,現役世代だけでなくシニア会員の高い見識と経験を大いに発揮してもらうシステムの構築があります.この実現のためには,現役を退かれた諸先輩のお知恵もお借りしたいと思いますので,よろしくご協力とご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます.
もちろん,新たな取り組みや仕組みを構築するには,財政的な裏付けが必要になります.幸い,ここ2年間はコロナ禍で,講演会や理事会の完全オンライン化により,本学会の財政は健全化しておりますが,私個人的には,学会に参加するメリットは対面による生の議論や人との出会い,そこから醸成される人脈形成であると思っています.したがって,恒久的な財政安定化のために,ビジョンFM2030にも示されていますが,オンライン会議のメリットとデメリットを勘案したコロナ禍後を見据えた運営の改革も理事会が率先して進めます.
さて,国際化を鑑みたとき,平和で自由な往来が欠かせないと思います.2022年初頭の世界を見渡せば,欧米では水際対策の緩和・撤廃などようやくコロナ禍の出口戦略が固まってきたかに見え,明るい兆しが見えてきました.我が国もこれに追従することと思います.コロナ禍克服に対して流体力学は,ご存知のように国内外の研究者によって,飛沫拡散予測など感染症対策に役に立ち,一般へのアウトリーチと流体力学の認知に成果をあげてきました.しかし,新たに東ヨーロッパではロシア軍のウクライナ侵攻という戦禍の暗雲が広がり,国際情勢の行く末の不透明度が瞬く間に増してきました.テレビに映し出される惨状を目の当たりにし,胸が張り裂けそうな思いで,(3月初めのことです)この原稿に向かっております.知人のロシア人研究者からも侵攻勃発と同時に,断固反対するとメールメッセージが来ております.やがては我々の平和理念によるソフトパワーが武力による蛮行を打ち負かし,本拙稿が掲載されるころには,平和への道筋が示されていることを願ってやみません.
いずれにしましても,流体力学が人類社会に役立ち,日本流体力学会が今後も繁栄することと会員皆様のご健勝をお祈りし,就任のご挨拶とさせていただきます.