このたび,須賀一彦前会長(大阪公立大学)の後を引き継ぎ,2023年度の会長を拝命いたしました東京大学の高木周です.店橋護副会長(東京工業大学)はじめ理事会メンバー及び関連する各種委員会のメンバーと共に,流体力学の研究,教育および学会そのものの発展に貢献したく存じます.
さて,昨年度の須賀前会長の就任の挨拶でも触れられておりましたが,一昨年とりまとめられた「ビジョンFluid Mechanics 2030, ~力学を基盤とするハブ学会~」(FM2030)の提言は,日本流体力学会の今後の方向性にとって大変重要な内容だと感じております.FM2030では,具体的に何をしていくべきか多くの提案がなされており,今年,東京農工大学で開かれる年会では早速,その内容が取り込まれております.一例として,今度の年会から,一部学生の発表を除き,講演申込みの際に講演論文の提出が必要なくなり,Abstractのみで発表ができるようになります.このようにした背景には,著作権上の問題も含めたいくつかの理由がありますが,一つは,他学会の動向も調べながら,アメリカ物理学会(APS)流体力学部門(DFD)のやり方に倣ったところがあります.
APS-DFDは,毎年11月に開かれる年会の参加者が年々増加していき,コロナ前では3500名程度,40部屋パラレルで開かれるような超大型の講演会となっております.私自身が初めてAPS-DFDに参加したのが30年ほど前でしたが,当時も規模の大きな学会ではありましたが,その頃よりも参加者のすそ野を広げ,様々な応用分野を取り入れて倍以上の規模へとなっております.参加者には若手研究者も多く,大変活気のある講演会となっており,日本から参加されている流体力学会の会員も多くの方が似たような印象を持っているかと思います.さて,日本流体力学会は,1968 年創立の流体力学懇談会をその起源に持ち,まさしく日本の流体力学の基礎研究を牽引してきた学会であります.流体力学を専門とする研究者が,質の高い講演・議論を行い,例えば乱流の基礎研究分野などは,そのような環境下で世界的にも卓越した成果を多く挙げてこられました.一方,流体力学の知識を必要とする事柄は,科学技術の発展とともに年々増加しており,ナノ・マイクロ分野,医療応用分野,地球環境関連分野等を中心に,そのすそ野は大きく広がっております.このような状況下で,流体力学に関連しながらも異なる専門性を有する人たちが集まり,皆で組織を運営しながら,分野の多様性,構成員の多様性を強みとして発展していくことが重要だと考えます.流体力学に関する極めて高度な専門的知識を有する方が最先端・最新の情報の交換の場として学会活動に参加する,真の専門は流体力学ではないが,流体力学の専門的知識を必要とする方が学会活動に参加するなど,様々な立場での参加者にとって,役に立つと感じて頂くだけでなく,居心地が良い,参加しやすい,この学会で学問の同志を増やしたいと思ってもらえることが活動の活性化には重要だと考えます.また,日本では,新しい分野が創出されると新しい学会は作られるが,役割を一通り終えた学会を整理して活動を休止するような方向はなかなか進まないと認識しております.細分化し,裾野が広くなった今こそ,時代の変化にも対応可能なハブ学会的な役割を持つ学会の存在が極めて重要だと考えます.日本流体力学会は,そのような立場になり得る学会ですし,そうなるべきと考えます.
皆様にとりまして,日本流体力学会での活動が流体力学の関連する様々な事柄に関して,分野を超えた重要な情報交換の場となることに加えて,新たな技術的課題,研究テーマ等の提案と解決,学問領域等の創出,さらには成果の社会的還元につながるよう微力ながら努力したく,ご支援を賜りますよう宜しくお願い申し上げます.