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受賞者および選考理由(2016年度)(2) 

受賞者

杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室 自然科学研究教育センター)

対象業績

地球流体における渦からの自発的な重力波放射の研究

関連論文

(a) N. Sugimoto, K. Ishioka, and K. Ishii, “Parameter sweep experiments on spontaneous gravity wave radiation from unsteady rotational flow in a f-plane shallow water system” J Atmos Sci 65, 234-249 (2008).

(b) N. Sugimoto, K. Ishioka, H. Kobayashi, and Y. Shimomura, “Cyclone-anticyclone asymmetry in gravity wave radiation from a co-rotating vortex pair in rotating shallow water” J Fluid Mech 772, 80-106 (2015).

N. Sugimoto, “Inertia-gravity wave radiation from the merging of two co-rotating vortices in the f-plane shallow water system” Phys Fluids 27, 121701 (2015).

選考理由

 地球流体の力学的特色は,流体が密度成層と回転との重畳下での運動にあり,その端的な特徴を表すものとして,安定成層の復元力に起因する重力波が流体運動の諸相への影響が挙げられる.候補者の対象業績は,この重力波の生成および放射の問題をf-plane上のshallow water equationという非常に簡単な数学モデルを用いて解析を行うことで,問題とする現象を明確かつ単純にしながら,質的理解を大局的に実現したものである.非定常ジェットからの重力波の放出をFord-Lighthillによる漸近解析ならびに直接数値シミュレーションを用いて解析し,その変調を成層(Fr数)と回転(Ro数)に対して俯瞰した上で,定在渦対からの音波の伝播との相似性を援用することで,重力波反射における非対称性の存在を明らかにした.さらに,この非対称性が渦対の融合過程にも観察されることへの確証も与えている.このような知見は,国際的にも活発な議論となっている地球規模の将来気候予測にも持ちられている全球数値気象モデルの高度化を導く.基礎となる方法論は,流体運動の支配方程式に特有の非線形性を備えた偏微分方程式系に対して,Ford-Lighthillによる漸近解析を行い,それを直接数値シミュレーションにより実証する手順に準じている.ある意味では確立されたものともいえるが,現象の本質的な性質の抽出を実現するために必要な手法の適切な選定,さらには,どのような物理系に対して実行すべきか?その問題設定において,候補者の卓越した研究センスが肝要であったことに疑う余地はない.選考委員会でも,対象業績および研究者としての資質に極めて高い評価を得ており,候補者は,今後の流体力学の発展への顕著な貢献を期待できる若手研究者である.