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受賞者および選考理由(2008年度) 

受賞者

長田孝二(名古屋大学大学院工学研究科・准教授)

対象業績

安定および不安定密度成層乱流場における乱流輸送現象の解明

関連論文

  1. K. Nagata and S. Komori: “The Effects of Unstable Stratification and Mean Shear on the Chemical Reaction in Grid Turbulence,” J. Fluid Mech., Vol.408, pp.39-52 (2000),
  2. K. Nagata and S. Komori: “The Difference in Turbulent Diffusion between Active and Passive Scalars in Stable Thermal Stratification,” J. Fluid Mech., Vol.430, pp.361-380 (2001).

選考理由

乱流中では、大小さまざまな時空間スケールを有する渦運動によって、熱や物質といったスカラーが活発に輸送され拡散する。乱流におけるスカラーの輸送現象は、伝熱機器の性能向上、反応器での混合や反応の促進、あるいは大気海洋中の熱や物質の拡散予測など、工学的応用や環境問題に密接に関連する重要な研究課題である。受賞者は、独自に開発した計測手法を用いた実験により、この乱流スカラー輸送の研究に取り組み、安定あるいは不安定温度成層下で作用する浮力が乱流輸送現象に及ぼす影響を明らかにした。

従来から平均流による剪断が乱流中の物質混合や化学反応を促進することはよく知られていたが、不安定成層下での浮力対流による促進効果については十分な理解が得られていなかった。受賞者は、レーザ流速計とレーザ誘起蛍光法を組み合わせた速度濃度同時計測によって、平均剪断あるいは不安定成層下での浮力が格子乱流中の物質の混合と反応に与える影響を定量的に調べ、浮力対流は大小いずれのスケールでも乱流混合に大きく寄与するため、平均剪断よりも高い反応促進効果をもつことを示した。

浮力発生の原因となる熱(アクティブスカラー)と物質(パッシブスカラー)とが安定成層下で同時に乱流拡散する場合、勾配拡散に基づく乱流モデルによる数値予測では、両スカラーの乱流拡散係数が等しいとする仮定が用いられることがある。この仮定の是非を明らかにするため、受賞者は、上記測定手法に抵抗温度計による温度計測を組み合わせることによって、安定成層下での格子乱流中に放出された物質の拡散と熱拡散を調べた。その結果、温度と物質濃度の境界条件が異なる場合には、両者の相関が小さくなるため、アクティブスカラーである熱とパッシブスカラーである物質の乱流拡散に著しい相違が現れることが実証された。同様の結果は、受賞者の差分法による直接数値シミュレーションでも確認されている。

以上のように、受賞者は速度、濃度、温度の同時計測を実現することで乱流スカラー輸送を実験的に捉え、不安定成層下での浮力が化学反応を著しく促進すること、さらには安定成層下での熱と物質の拡散に大きな差異が生じることを示した。これらの研究成果は乱流輸送現象の解明にきわめて重要であると同時に、化学反応の促進や乱流拡散の数値予測といった応用面でも大きな意義をもつ。以上のことから、受賞者のこれまでの乱流研究への寄与は高く評価され、今後も流体力学の発展に大きく貢献するものと期待される。