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受賞論文および選考理由(2013年度)(2) 

受賞者

石本健太(京都大学数理解析研究所・博士後期課程2年
山田道夫(京都大学数理解析研究所・教授)

対象論文

K. Ishimoto and M. Yamada: “A coordinate based proof of the scallop theorem", SIAM Journal on Applied Mathematics, Vol. 72, No.5, pp. 1686-1694 (2012).

選考理由

 バクテリアやプランクトンなどの微生物の推進に関する流体力学については,半世紀以上にわたる研究の歴史がある.流体中の微生物運動がストークス方程式に従うとき,微生物の形状変形が時間反転可能な往復運動であるなら,変形の1周期で元の位置に正確に戻ってくるという命題は,ノーベル物理学賞受賞者である E.M. Purcell によって「帆立貝定理」として1976年に紹介されて以来,流体力学のみならず生物学の分野でも広く知られてきた.また,多くの論文や教科書にも取り上げられているが,その証明に関しては,これまで,特別な形状変形のみを扱った不完全なものしか存在しなかった.

 本受賞論文では,この帆立貝定理に対して,回転を含む一般的形状変形の場合について完全な証明を与えることに成功した.著者は,生物の並進と回転を明確に定義した上で,慣性がゼロではない生物について定式化を行い,慣性ゼロの極限をとることで,質量ゼロの生物がストークス流中で往復運動を行えば,変形の1周期で生物の並進と回転がゼロになることを数学的に示し,定理の証明を与えた.この業績は厳密な定理の証明として,アメリカ応用数学会SIAMの応用数学ジャーナルに掲載された.

 現実の微生物の運動では,例えば鞭毛を持つバクテリアの場合は螺旋状の鞭毛を一方向に回転することで推進するなど,形状の往復運動を行わず,その結果として推進する.このように,微生物の推進機構の根底に横たわる帆立貝定理の厳密な証明は流体力学的に非常に重要であり,また生物学など他分野にとっても大変価値が高く,新しい理論展開にもつながりつつある.

 本論文で得られた成果は,流体力学的に価値が高いのみならず,生物学,とくに微生物の流体中での運動機構の解明における基礎を与えるものであり,選考委員会においても大変評価が高く,日本流体力学会論文賞に相応しいと判定された.