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受賞論文および選考理由(2007年度) 

受賞者

黒瀬良一氏(京都大学・大学院工学研究科・ 機械理工学専攻・准教授),小森 悟氏(京都大学・大学院工学研究科・ 機械理工学専攻・教授)

対象論文

Ryoichi Kurose & Satoru Komori: “Drag and lift forces on a rotating sphere in a linear shear flow,” J. Fluid Mech., 384, 183-206 (1999).

選考理由

物質粒子の乱流による輸送は,黄砂や粉塵などによる砂漠化や大気,海洋,河川汚染などの環境問題だけでなく,化学プラントなどにおける混合など工業上の応用においても極めて重要な問題である.これまで,この問題は,単純せん断流れ場に置かれた球形粒子に働く抵抗と揚力を求めるという最も基本的な問題に帰着され解析されてきた.

粒子レイノルズ数が小さいときに特異摂動法により得られた解析結果の中で最もよく知られているのが,「非回転の球形粒子に働く揚力は常に相対速度の速い側に働く」というものであり,いつしかこれが流体力学の常識として信じられてきた.その後,2次元流れにおいて粒子レイノルズ数が大きい場合には揚力方向の反転があることが数値解析により指摘されてはいたものの,3次元流れにおいてはこの常識が覆されることはなかった.

著者らの最大の貢献は,この常識に疑問をいだき,球形粒子に働く揚力は常に相対速度の速い側に向くのではなく,粒子レイノルズ数が大きいときには反転し得ることを,3次元数値シミュレーションと実験により示した点にある.

数値シミュレーションの手法は通常の差分であるが,著者らは粒子表面における応力分布の変化を粒子後流における剥離渦流れの非対称性の変化に結び付けて注意深く観察し,高い粒子レイノルズ数における揚力方向の反転のメカニズムを明らかにした.また,自ら実験も行い,十分な精度を持って同じ結論を確認し信頼性を高めている.さらに,球形粒子の回転が加わった場合も含めて,抵抗と揚力を幅広い粒子レイノルズ数にわたって詳細に解析している.加えて,粒子に働く抵抗と揚力の簡便な実験公式を構成して実用に供しており,応用の面からも高く評価される.このことは,被引用件数の多さからも推測される.得られた知見は実際の環境問題における重要性,工業技術などにおける重要な応用につながる大きな可能性を秘めており,流体力学への貢献は大きいと判断される.

以上のことから,本論文はその流体力学の常識への挑戦,応用上の重要性に関するインパクトの大きさから判断して,流体力学論文賞にふさわしいと評価される.