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第11回FDR賞(2018年受賞)受賞論文決定 

第11回FDR賞(2018年受賞)は,以下の論文に授与することが決定しましたので,お知らせします.

論文題目:On angled bounce-off impact of a drop impinging on a flowing soap film

著者:Saikat Basu, Ali Yawar, Andres Concha and M M Bandi

掲載年・巻・号・論文番号:2017年,第49巻,6号,065509

 斜めに石鹸膜を傾けると重力によって流れが生じる.そこに,微小液滴を落とすと多様な振る舞いを示す.水平からの傾き角が小さい場合には,液滴は膜を突き抜ける.傾き角がある角度を越えると,液滴は石鹸膜と合体していっしょに流れる.鉛直方向に近づくと,液滴は膜に跳ね返される.これには石鹸膜の弾性も効いているかも知れない.本論文では,「跳ね返り(bounce off)」の実験を行い,石鹸膜が液滴に及ぼす力の見積もりを行って,現象の説明に成功した.
 実験系の概略は次の通りである.ピンと張った194cmの直線ワイヤ(= 厚み0.3mm のナイロン製釣り糸) を2本,5cm 離して平行に配置し,上端と下端をワイヤで閉じて,上端を石鹸液(純水中に洗剤DawnTM を2.5%溶解) を貯めたタンクにくくりつけた.常時石鹸液を流し込んでワイヤ間に膜を張り,下に溜まる石鹸液をポンプでタンクに回収することによって,定常に流れ落ちる石鹸膜を実現した.膜厚は平均1.5μm でほぼ一様である.鉛直軸からの傾き角として,0.86から6.85の間で8 個選び,このほぼ鉛直に立てた膜に,平均直径1.3±0.1mm の微小な純水液滴を自由落下させる.いずれも,液滴は膜に跳ね返される.一連の衝突過程を高速度カメラで撮影し,同時に,PIV 測定によって,液滴まわりの流れ場の測定を行った.
 衝突後の液滴の変形を考慮して,石鹸液からの浮力と表面張力,膜の弾性力を見積もった.表面張力係数の表面の伸び(縮み) への依存性に係わるマランゴニ弾性(Lhuisseier and Villermaux: C. R. Mec. 337 (2009) 469)を検討したが,弾性力は無視できるほど小さい.液滴に作用する合力の膜に垂直な成分が上向きであることを跳ね返り条件とすると,実験結果を説明できる.
 アメンボは,推進運動量の1/3 を表面波生成によって,2/3 を渦双極子の放出によって獲得する(Bühler: J.Fluid Mech. bf 573 (2007) 211).高速カメラの画像解析から求めた液滴の衝突・跳ね返り速度から液滴が石鹸膜に与える水平方向の運動量を見積もって,その2/3 を液滴後流の渦双極子に係わる流体インパルスとした.片や,PIVデータからインパルスを計算した.前者は後者に比べて小さ目であるが,オーダーは合う.
 制御を要する実験を成功させ,精妙なモデルによって多様な振る舞いの説明に成功した.結果は,生物の運動への示唆に富む.斬新な実験から有用な知見を引き出した貢献によって,FDR 編集委員会は,本論文を第11 回FDR 賞にふさわしい論文であると決定した.

FDR編集委員長 福本康秀